122話 僕は絶対に正しい。
122話 僕は絶対に正しい。
「君はただの、どこにでもいる奴隷だ」
「は、はぁ……」
「君が数少ない『事件の目撃者・関係者』であることは事実だから、多少、話は聞かせてもらいたいけどね。いいかな?」
「え? あ、はい……まあ、別に……なんの問題もありませんが」
「あ、その前に……」
そこで、
ゼンドート伯爵は、手招きをして、地下迷宮研究会のメンバーの一人を呼び出した。
呼ばれて即座に、ここまで駆け付けたのは、ボクと同い年ぐらいの少女。
緑を含む淡い銀色の髪は腰あたりまでなめらかに伸び、光に透けるようなやわらかさをたたえていた。
大きく凛とした瞳は、まるで、深夜アニメの萌えキャラが如く。
まん丸の眼球には静かな光が宿り、年齢以上の思慮深さを感じさせる。
大人びて見える部分もあったが、まだ相応の幼さも光る。
身にまとっていたのは、年齢に似合わぬ上等な装束。丁寧に織られた生地に、控えめな文様と彩りが添えられている。
足元にはきちんとした革靴を履き、動作はひとつひとつ落ち着いている。
「彼女は『燕の5番』。ボクが飼っている奴隷だ」
「ぇ、は、はぁ……どうもです」
と、ボクはペコっと頭をさげる。
彼女もまた、ペコっと頭をさげた。
人懐っこそうな笑顔で、ぽやぽやした雰囲気。
『将来はいいお母さんになりそう選手権』で殿堂入りになりそうなオーラ。
……で、なに、この時間?
ボク、なんで、彼女と会釈し合ってんの?
と思っていると、
ゼンドート伯爵は、おもむろに、アイテムボックスから剣を抜いた。
金属が、キィンと静かに鳴いた。
……『空気が張り詰めるヒマ』もなく……
躊躇もクソもなく、
ボクの目では追えない速度の斬撃で、
ズバァアアア!!
と、彼女の背中を切り伏せた。
一瞬、世界が凍りついた。
呼吸すら忘れるほどの、重たいコンマ数秒。
最初、彼女の体に異常はないように見えた。
だが、ブシュっと音がして、背中から真紅が噴き出す。
まるで、世界が『処理』を後回しにしていたかのよう。
切られた彼女自身ですら、一瞬、何が起こったのか分からないという顔をしていたが、
「あぁああああ!!」
と、耳をつんざく悲鳴がとどろく。
宿舎中に響き渡る苦悶の声。
何が起こったのか分からず、ボクが、ただただ呆けていると、
そこで、
……『この中でもっとも人道的な貴族』であるカルシーン伯爵が、
「な、何をしているんだ、ゼンドート伯爵!!」
と、ブチキレた顔で、怒声を叫ぶ。
続けて、『まともな貴族代表』の『ラストローズ辺境伯』も、
「伯爵! 何をしているんだ!」




