112話 それもある種の合理。
112話 それもある種の合理。
「あれだけ丁寧に説明してやったのに、全部無視して、回復魔法をかけるなんて……」
7番が、呆れ交じりにそう言ってきたので、
ボクは、一度、だいぶ深めに頭を下げて、真摯に、
「色々と考えてくれてありがとう。今後も、サポート、よろしくです。……ただ、どうしても、カルシーン伯爵は殺したくない。ここで、この人を殺したら、ボクは人間じゃなくなる気がする。……3番は、正直、どうでもいい。別に、思い入れとかないし。綺麗な女性だとは思うけど、それだけじゃ、ボクの心は動かせないのさ」
最後にちょっとだけおどけて、空気を軽くしようとしたが、
「……」
7番は黙ってボクを睨んでくるばかり。
余計に空気が重くなってしまった。
前々から薄々と気づいていたけど、どうやら、ボクのコミュニケーションテクニックは色々と間違っているっぽい。
ただ、具体的に何がどう間違っているのか分からないから、修正のしようがない。
こまったものだ……
7番がタメ息まじりに、
「できれば、この女たちは殺しておきたいが……ソレを無理にでも実行した場合、あんたの恨みを買いそうだな」
「そうだね。結構恨むと思う。だから、できれば、伯爵と3番を生かす方向で『これからのプラン』を考えてください。おねしゃすっ」
「3番はどうでもいいか……なら殺してもいい? 『2人分の対応』をするより、伯爵の分だけ対応する方が遥かに簡単なのだけれど」
「あー、んー」
そこで、ボクは、3番と話した時のことを思い出す。
『……【休日】か…………もう何年も、休んだことなどないな……』
疲れた顔で、そんなことをつぶやいた彼女に、
実は、ちょっとだけ親近感を抱いていた。
ボクは、ポルから、なんだかんだ、『週に1日という最低限の休日』はもらっていた。
けど、この人は、いっさい休むことなく、ひたすら働かされているのかぁ……
かわいそうだなぁ……
と、普通に思った。
……それに、
『ぁ、アネゴ、じゃあ、あいつが51番に払う予定だった金、俺がもらってもいいですか?』
『あんたも今のところ、金には困ってないだろう。【過剰な欲は持つな】って、何度言わせれば気がすむんだ、バカ』
あの時、3番が、そう言ってくれなかったら、
ボクは、あの『金魚の糞みたいなチンピラ』にカツアゲされていただろう。
そういうことを諸々考えると……
「申し訳ないけど、3番も生かしてくれる? どうでもいいちゃどうでもいいけど……『殺すのは気分が悪い』っていう程度の思い入れはあるから」
そうお願いすると、7番は、
「はぁ……」
一度、しんどそうに、深いため息をついてから、
「……丁寧に、すり合わせをしておこう。どうやって、あの絶体絶命から助かって、外に出ることができたのか」
「いえす、まむ」
返事をしてから、
「あ、その前に、宝箱の中身、回収しますねぇ」
そう言いつつ、ボクは、宝箱を開けた。
いつも、この瞬間は、とてもワクワクする。




