110話 非線形ダイナミクスのローレンツがコクーンでパージ。
110話 非線形ダイナミクスのローレンツがコクーンでパージ。
「この場で、この二人を殺しても、それが明るみに出ることはない。殺すことのデメリットは極めて少ない」
「……まあ、バレることは確かにないだろうけど……」
「殺すことのメリットは無数に思いつく。たとえば、『地下迷宮研究会の主力の一人であるカルシーン伯爵を守れなかった』ということで、セミディアベル公爵が、『ラストローズ辺境伯の責任問題』として扱ってくれるかも。そうなった方が、こちらとしては非常にありがたい。今のところ、あんたが魔王使いではないかと疑っているのはラストローズ辺境伯ぐらいだから、辺境伯の注意が、あんたではなく、自身の名誉回復に向いてくれれば――」
と、7番は、かなり色々と、徹底的に考え抜いた上で、
カルシーン伯爵と3番を殺すプランを提案してくれている。
話を聞く限り、確かに、二人を殺した方が、メリットが大きい。
『生かしておいた際のデメリット』は『現状だと計算できない』という点で怖い。
モンジンが『カオス理論がどうたら』と補足してくれたけど、内容が難しすぎて、補足の意味がなかった。
非線形のダイナミクスが永遠に予想不能の初期条件がアグリーでファルシのルシでどーたらとか……
7番が、本気で色々と考えてくれたことは素直にありがたいと思う。
ボクとしても、正直、伯爵と3番は殺した方が後腐れないと思う。
けど……
「……」
気絶しているカルシーン伯爵を見つめながら、
ボクは、この前の事を思い出す。
神殿の帰り道、ポルのオッサンに殴られていたボクをかばってくれたカルシーン伯爵の姿。
『奴隷は、この巨大都市ユウガを支えてくれている大事な労働力だ。敬意を払え。無意味に壊そうとするなど、言語道断』
『いつも君たち奴隷には感謝している。健全で安定した都市運営のために、縁の下の力持ちを担ってくれてありがとう』
カルシーン伯爵が、民衆のために必死に働いているというウワサはボクの耳にも届いている。
彼女が、さっき、ダンジョン魔王を相手に必死に戦っていたのも、
『3番と7番! 命令だ!! 私を盾にしつつ、あの魔王に攻撃を仕掛けろ!! 必要だと判断した際には、私を捨て駒にしてもいい! 【ダンジョン内に魔王がいる】……この情報は、死んでも、上に届けなければいけない!!』
貴族としての本当の責務を果たすため。
カルシーン伯爵は、ウルベ男爵のようなクズとは違う。
本物の……尊敬に値する貴族様。
だから……




