106話 これはもうダメかもわからんね。
106話 これはもうダメかもわからんね。
カルシーン伯爵のような器用貧乏タイプは、基本的に火力が低い。
ゆえに、魔王は、ランク7という、人類視点では『だいぶエグイ魔法』をくらっていながら、余裕ヅラでピンピンしている。
『光撃では、さほどダメージをあたえられなかった』……と、理解するやいなや、
カルシーン伯爵は、
「――『地剣山ランク7』!!」
魔法を使った瞬間、
ダンジョン魔王の足元から、10本以上の『魔力の刃』が飛び出した。
魔王はザクザクっと体を刻まれたが、余裕の表情でニタリと笑っている。
「くぅ! まだだ! 『地剣山ランク7』!!」
伯爵は続けて同じ魔法を使ったが、
その攻撃は、魔王にあたる寸前で空間に吸われるようにして消えた。
『同じ攻撃はくらわない』とでも宣言しているみたい。
まるで、フロアの空間自体が、魔王の支配下にあるかのようだった。
それを見てモンジンが、
(これはもうダメかもわからんね)
(そう思うんなら、魔王を召喚してよ……このままじゃ、ボクも、ほかのみんなも死ぬ……)
(大丈夫だ、問題ない)
(問題しかないって言ってんだろ!)
(幸い、ダンジョン魔王のスペックがかなり低いから、タイミングさえ間違えなければ、誰も殺されることなく、全ての問題を完璧に処理できる。俺は知能指数が高いから分かる)
(……発言の知能指数はだいぶ低いけど?!)
「まだまだぁあああ!!」
ボクとモンジンが舌先で攻防している向こうで、
カルシーン伯爵は、血を吐きながら、必死に戦っている。
あの人は、口だけ番長のモンジンやボクと違って、マジで根性が凄いな。
今まで、他人を尊敬したこととかなかったけど、もし、今、『尊敬している人は?』と聞かれたら、迷いなく、カルシーン伯爵ですと答えてしまいそう……
「ぐぁあ!」
魔王がアイテムボックスからデスサイズみたいなのを取り出して振り抜いた。
伯爵は、胸を切られたが……しかし、それでも臆さない。
「くらぇええええ!」
さらに踏み込んでいく。
懐にもぐりこむことで、デスサイズの利点を潰す。
と、そこで、『針土竜の3番』が、魔王の背後から接近。
両手から放たれた紫色の波動が、魔法の鎖となって、魔王の全身を縛り付ける。
正面から呪縛を使った時はアッサリ消されていたが、
死角から放ったことで、一瞬だけ、魔王の動きを止めることに成功した。
なんだかんだ3番も、非常に高性能。
ボク以外、みんな、有能……
ボクとモンジンだけ無能……
(一緒にするな。俺は魔王を召喚できる)




