95話 子供タイプ。
95話 子供タイプ。
「……前に、地下迷宮研究会の仕事で潜った時、一度、『老龍』っていう、とてつもない龍のモンスターと戦ったことがある。……とんでもない強さと体力で……なかなか倒せなかった」
モンジンから聞いたことだけれど、
龍種は、すべてがハイスペックな種族らしい。
……ボクの感覚的にも、そんなイメージだ。
知性、体力、魔力、オーラ、火力、何もかもが超一級品。
数多く存在するモンスター種の中でも別格。
蝙蝠の7番が、ボソっと、
「……さっきのエルダードラゴンだっけ? あれは……老龍よりも、明らかに……遥かに……強い覇気を放っていた。そんな最上位龍種5体を……」
自分の中にある知識・経験と照らし合わせることで、
魔王の力が、より、立体的に、克明になる。
7番の中での『魔王のヤバさ』がシルエットを増すたびに、
ボクの中の『魔王に対する認識』にも変動が起こる。
すでに、慣れてしまった感があるので、忘れがちだけれど……魔王って本当にすごい存在なんだよなぁ……
などと、思っていると、
奥の壁に、スゥっと、浮かび上がるように、『大きな扉』が出現した。
もう疑う必要もないだろう。
きっと、この先に魔王が待っている。
……現在時刻は23時50分で、
『本日の魔王を召喚できるタイムリミット』まで、
あと2分39秒ぐらい。
2分もあれば多分勝てると思うけど、
念のため、57分になるまで待ってから、
ボクは、ゆっくりと扉を開く。
★
扉の先にあった階段を下りて、下のフロア……地下7階に辿り着くと、
そこは、もはや見慣れてしまったボスフロア。
広さは、体育館サイズ。
そして、フロアの中央には……
「うわぁ……やだねぇ……子供タイプかぁ……やり辛ぇ……」
この広いフロアのど真ん中に、まがまがしい玉座が一つ。
そこに、『パッキパキのオーラ』を放っている怪物が鎮座。
「存在値500……これまでのダンジョン魔王とくらべて、ステータスはちょっと低いけど、間違いなく魔王。それはいいんだけど……見た目がなぁ……子供型はやめてほしいなぁ……」
見た目、まるっきり子供の、小柄な女の子魔王だった。
黒と金の絹布を何重にもまとい、風が吹くだけで布がはらりと舞う。
肌は『存在しない色』……青なのか紫なのか微妙なところ。
中華風舞姫のようでもあり、葬儀装束のようでもあった。
長い髪は糸のように細く、額には逆さに刺さった一本のツノ。
それは鉤爪のように禍々しい。
顔は幼いのに、目だけが異様に老いていた。
あの目は、たぶん、深淵と見つめ合っている。




