92話 世界の騙し方。
92話 世界の騙し方。
『アホの子』のモデルは『しんち〇ん』と『ボーち〇ん』で事足りる。
あの国民的おバカアニメの登場キャラの中で、あの二人は、実は『ぶっちぎりナンバーワンとナンバーツーの超天才児』だけれど、教養のない人間の視点では、どっちも『ただの頭が足りないバカ』に見えるだろうからね。
などと転生前のアレコレを懐かしみつつ、そんなことを思っていると、
「バカのフリをするのも限界があるだろう」
7番が、スっとこちらに顔を向ける。
艶やかな髪がゆらりと揺れて、目の端にかかる。
その声音は変わらず落ち着いていたが、どこか苦笑のようなものが混じっていた。
「じゃあ、どうしたらいいんすか? ボクはフリじゃなく、普通にちょっと頭が悪いんで、お貴族様を騙す方法とか思いつかないんですよね。できたら、全部考えてくれません? 今後、ボクが何をして、どういう行動をとるべきか。もろもろ全部」
ボクがふざけ半分にそう返すと、7番の口元がかすかに動いた。
「……できることなら、『あんたがダンジョンに挑戦している』ということを『上には黙っておきたい』のだが、地下迷宮挑戦は、記録が残るから、その点をごまかすことは……できなくはないが、リスクの高い悪手だな」
7番の声には、珍しく、『ほんのわずかな躊躇』が混じっていた。
長年の訓練と任務の経験から来る『慎重さ』が顔を出している。
……ちなみに、そんな作戦会議をしている間も、モンスターは絶え間なくわいていた。
パリピーニャは涼しい顔をして、モンスターの顔面に、ロケットみたいな膝をぶちこんでいる。
褐色の肌に汗ひとつ浮かべず、長く引き締まった手脚が踊るように動き、オーラの奔流が空間を圧縮している。
伝統芸能にまで昇華された舞のような優雅さと、その奥ににじむ圧倒的な殺意の共存。
パリピーニャがモンスターを瞬殺しているのを尻目に、7番が、続けて、
「とりあえず、バカのフリは続けた方がいい。その方が油断を誘えるから。ただ、『愚者の演技』はあまり極端にやりすぎると、逆にあやしまれる可能性もある。その辺のさじ加減は気をつけてほしい」
「いえす、まむ」
「あんたが、色々なダンジョンに挑戦していることの言い訳……たとえば、こういうのはどうだろうか。あんたは、事実として、すでに大金を払っている。ここで諦めてしまうと、今まで払った全てが無駄になってしまう。それは、あんたにとって耐えがたい恐怖」
「どっちかっていうと、ボクは自分のことを『負け戦から早めに撤退する方』だと思っていますが……そこは、まあ、バカのフリの延長ということで、受け入れましょう」




