90話 ラストローズ辺境伯への言い訳。
90話 ラストローズ辺境伯への言い訳。
『パリピーニャが、出て来るモンスターを秒で粉砕する様子』をアホ面で眺めながら、3階、4階と、下へ下へ降りていくボクたち。
前回の『メラトニンの地下迷宮をクリアした報酬』で、ボクは……というか、モンジンは、『魔王を2体同時に召喚できる力』を得たわけだけれど、
今のところは、その力を使う必要が一切ない。
パリピーニャ一人いれば、どんなモンスターが出てきても、1秒以内に木っ端みじんになる。
そんなこんなで5階の探索をしていたのだが、その途中で、7番が、
「あんたが、こうして、色々なダンジョンに挑戦している事に関して……『ラストローズ辺境伯への言い訳』を考えないといけないな」
「言い訳?」
「今のところ、辺境伯に、あなたがダンジョンに挑戦し続けている理由について『17番は、自分のような弱い奴隷でもクリアできる難易度のダンジョンがあるはずだと信じて、色々なダンジョンに挑戦している』と、言い訳をしているけれど……」
彼女の口調は冷静で理知的だった。
いつだって、感情を混ぜず、摂理だけを並べる。
「この先、ずっとダンジョンに挑戦し続けることになるから、その言い訳一本で通すのは、流石に厳しい……感じ?」
ひとつ息を吐くと、彼女はフードの奥で眉をひそめ、
暗がりの中でもわずかに目を光らせた。
「どのダンジョンも、難易度は大差ない。どんなバカでも、いずれはそれに気づくはず」
「……まあ、正直、その点に関しては、最初から知っているしね」
「そもそも、『奴隷でもクリアできるダンジョン』があるなら、既に、貴族がクリアして、中の宝を全部回収しているはず」
淡々とした口調のまま、視線だけがわずかに斜め上を向いた。
記憶の中の地図をなぞるように、
思考の先を組み立てながら言葉を選んでいるようだった。
ボクは、うなずきながら、
「地下迷宮は、『誰もクリアできない秘境』である。……それを知らないバカは、街中を隅から隅まで探しても、なかなかいないよね」
「最低限の論理性をもって考えれば、『奴隷にクリアできるダンジョンなど存在しないこと』は明白。……その上で、迷宮に挑戦するには50万が必要。どんな大金持ちでも、流石に50万もの大金をドブに棄てるようなマネはしない。この二つの前提がある以上、いつまでも同じ言い訳を通すことはできないでしょう」
言い終えると、7番はひとつ顎を引いた。
表情は変わらないが、その目は『そのぐらい分かるだろ?』と語っていた。




