88話 短くてキモいぞぉ……
88話 短くてキモいぞぉ……
『蝙蝠の7番』が帰ったところで、
9番が、背後から、腕にガシっとしがみついてきた。
腕に、細く長いまつげが触れて、すげぇ落ち着かない。
まつげ長すぎるんだよ、こいつ。
おかしいだろ構造が。
本当に同じ人間か?
ボクのマツゲを見ろよ。
短くてキモいぞぉ……
「センパイ、大丈夫でしたか? なんか、あの女性……ヤバそうな雰囲気の人でしたけど」
その声が、いつもより少しだけ不安げで、
けどやっぱり、耳に残るほど優しかった。
背中に感じる9番の小さな体は、
相変わらず熱っぽくて、しっとりしていて──無駄にドキドキする。
やめてほしいけど、やめてほしくない……この感情、しんどいんだけど。
というか、6歳児にこんな複雑な感情を抱かされるって、だいぶバグってる。
ボクは、もう実年齢30近いってのに……
9番の仕草って、いちいち小悪魔的だから心底たち悪い。
こっちの動揺をよそに、本人は完全に無自覚っぽいのが、ほんと勘弁してほしい。
……無自覚なふりをして、『計算していない感じ』を計算していたりしたら、どうしよう。
もし、そうだったら、抵抗する手段がなくなる。
まあ、流石に、そんなことはないだろうけれど。
……9番って、たまに、ほんの一瞬『ぜんぶ見透かしたような目』をする時があるんだよな。
気のせいかもしれないけど。
……気のせいであってほしい。
……ボクは冷静に、深呼吸を挟んでから、
「間違いなくヤバい人ではあるけど、見られてしまった以上は、上手に付き合っていくしかない」
「センパイ、もうちょっと慎重に行動した方がいいですよ。魔王を召喚できるって、この街だと、すごく危ないことなんですから」
9番は、ボクの左手をそっと握ってくる。
スベスベした肌が触れて、ドキッとする。
この子、なんか常に体温高い気がするんだけど……気のせい?
いろいろ勘弁してくれ。
ほんとに。心臓に悪いから。
「わかっちゃいるし、多少は慎重に行動しているつもりなんだけど、みんなから怒られるなぁ……」
ボクは一度、タメ息をついてから、
「さっきの女……7番が言っていた通り、ボクみたいなバカがどんなに慎重に動いても、優秀なヤツに目をつけられたら、いずれはバレてしまう。だからって、慎重になりすぎて、行動をしなかったら、人生を好転させることなんかできない。人生ってのは難しいねぇ」
ため息をつきつつ、
「でも、今後は、7番がサポートしてくれるらしいから、多少は、バレにくくなると思うけどね」
「僕も全力でサポートしますよ。一緒に、頑張って生きていきましょう」
ニコニコ笑顔でそんな事を言ってくれる……が、
9番のサポートは、別にいらないかな。
美少年なのは認めるけど、それ以外は、特に何もないし。
これまで通り、ボクの秘密を黙っていてくれればそれでいい。




