84話 モンジンは幽霊。
84話 モンジンは幽霊。
「なるほど、パリピーニャ以外も召喚できるのか。……もしかして『モンジン』というのも魔王か?」
蝙蝠の7番の声には、揺るぎない静けさがあった。
まるで水面に浮かぶ氷のよう。
「なんで、モンジンのことを……?」
ボクは息を詰めかけたが、なんとか声を出す。
視線を逸らさぬよう努力しつつも、心臓の鼓動だけがやけにうるさい。
「あんた、ダンジョンで、何度も独りごとを言ってただろ。その時、『モンジン』って名前、しょっちゅう口にしてた」
その口調は、責めるでも、嘲るでもなかった。
ただ、淡々と事実を並べるだけの、任務遂行者の声。
「……なるほど……」
指先に汗が滲む。
不用意な言動が、こうして刃になって返ってくる。どこまで気づかれているのか、もう見当もつかない。
「それで? モンジンは魔王なのか?」
「えっと、モンジンは……幽霊ですね」
「……幽霊?」
彼女の眉が、ほんのわずかに動いた。
感情を排した顔に、わずかに生まれる「理解不能」のしるし。
「ボクの中に、『奇妙な幽霊』が憑いていまして……そいつが魔王を召喚できるんです。ボク自身には、何の力もなくて……ただの器といいますか、受け皿といいますか……」
言いながら、自分でも『馬鹿げている』とわかる説明に、うすら寒い気持ちになる。
なんだ、幽霊に憑りつかれたって……
バカバカしい……
他人事だったら、鼻で笑って終わりだ。
「テキトーなウソをついてごまかしてる……風には見えないな」
「観念してからは、ずっと正直に答えています。騙すつもりなら、もうちょっと頭のいいワードで責めますよ。少なくとも、幽霊って言葉は使わない」
「……ふむ」
一瞬だけ、蝙蝠の7番の目が細くなった。
まるで、こちらの『中身』を測定するように。
その目に込められた静かな圧力に、思わず背筋を伸ばしてしまう。
音もなく呼吸を整える彼女は、
まるで自らの内側の感情を丁寧に沈めるようだった。
怒らず、焦らず、浮つかず──だからこそ、底が見えない。
『忍者』という生き方が、言葉の端々ににじんでいた。
その生き方はしんどいだろうなぁ……というのが、率直な感想だ。
ボクには出来ない人生。
……そこから、半分取調べみたいな形で、
ボクは、魔王召喚に関する情報をすべて引き出された。
5分の召喚時間制限。
2体同時召喚。
ゼラビロスの戦闘特性。
……その他、もろもろ。
7番の質問は緻密で、的確で、速かった。
迷いのない聞き方が、逆にボクから『嘘をつく余地』を奪っていく。




