82話 オワタ。
82話 オワタ。
蝙蝠の7番から渡された手紙の中身を要約すると、以下の通り。
――『魔王事件の犯人は猿の17番。猿の17番は魔王を召喚している。私は真相を突き止めたが、それがバレて殺された』――
(うーわ……)
ボクの中のモンジンが絶句している。
ボクも、血の気がサーっと引いて、もはや、なんか寒い。
額にじっとりと汗が浮かび、指先は凍えたように震えていた。
肺に空気を入れるのさえ重たく感じる。
視界が少しずつ狭まり、周囲の音が遠ざかっていく──まるで意識が地下に沈んでいくようだった。
気づけば、貧血なのかどうか知らんけど、クラックラしている。
ノックダウン寸前のボクだけれど、
最後の望みに賭けて、
「いや、あの……なにか、勘違いしているみたいですね」
『誤解のゴリ押しで、なかったことにしよう大作戦』を敢行してみるけれど、
「あの女魔王のことを、パリピーニャと呼んでいたな。ダンジョン内で、あんたが、何度も召喚していたから、名前を覚えてしまった。凄まじい強さだった。ダンジョン最奥にいた魔王も、あのパリピーニャの前ではほとんど何もできていなかったな」
オワタ。
どうやら、昨日のダンジョンでのあれこれを全部見られていたらしい。
背筋がゾクリと粟立った。
遅れて恐怖が膨らんでいく。
空気が重くなり、喉がひりつく。
逃げ道はない。
(おそらく、影に潜んでいたんだ。そういう潜伏魔法がある)
(モンジン、なんで気づかなかったんだよ)
(だから、そういう能力は全部なくしているって言ってんだろうが)
(ほんとに、君は、使い物にならない幽霊だよ! 魔王を召喚できる以外に、何もできないじゃないか!)
(本来は、それで十分なんだがな……宿主が、お前みたいなバカでさえなければ)
と、お互いに罵り合っていると、
蝙蝠の7番が、
「そこに書かれたのと同じ手紙を、私のアジトに保管してある。もし私が死ねば――『信頼できる人物』がそれを取り出し、しかるべき場所に届ける手筈になっている」
その一言に、言い知れぬ圧があった。
声量は静かなのに、周囲の空気が一段階冷たくなる。
たった一言で、空気の密度が変わる感覚があった。
ピリついていることは、明確に分かったのだけれど……
(えっと……この人、なんで急にそんな話を?)
(マジか、お前! その女は、お前に『まだ誰にもバラしていないが、もし魔王の力を使って、私を殺したら、あんたの秘密が世間にバレますよ』って言ってんだよ!)
(ぁあ……そういうことか……なんか、テンパってて、なにがなんだかよくわかんなかった……いや、普段なら、わかるよ、もちろん。冷静な時なら、流石に、そのぐらい……)




