79話 蝙蝠(こうもり)の7番視点(4)
79話 蝙蝠の7番視点(4)
魔王を操り、魔王を殺す様。
……その異様な光景を見たとき、私は身体の芯が凍るような感覚を覚えた。
同時に、それまで『胸の奥底で飼いならしていたはずの欲望』が鋭く牙をむいたのを確かに感じた。
現在……『17番が、魔王を召喚できる』という『事実』に届いているのは、おそらく私だけ。
もしかしたら、他にもいるかもしれないが、その数は多くないだろう。
仮に、他にも、『17番が魔王事件の犯人だ』と気づいた者がいても、そいつが、よほどのバカじゃない限り、今の私のように、『どうすれば最大限利用できるか』を考えるはず。
バカ正直に報告して、むざむざ処刑させることはない。
あの力……魔王召喚の力には、大きな可能性がある。
既存の支配体制をひっくり返せるだけの力が……
正直、私は、現状の体制に、不満がある。
私は自分で言うのもなんだが、相当に有能だ。
貴族級の力を持っている……が、だからこそ、『便利な奴隷』としての地位から抜け出すことが、なかなかできずにいる。
身分を買おうとしても、上位貴族に邪魔されてしまうのだ。
私のような立場の者は他にも結構いる。
今回の魔王事件の調査を任されている『針土竜の3番』なんかもその一人。
このままだと、私は、おそらく、一生……
もしくは、一生に近い長い時間、
奴隷として便利に酷使され続ける。
……だから、私は、
「けほっ……失礼しました、ラストローズ辺境伯……喉の調子が悪く、セキを我慢しておりました。んんっ」
「体調が悪いのか? なら、無理はしなくていい。君の代わりはいないのだから」
「……どうか、お気になさらず」
正直、ラストローズ辺境伯に対しての文句はない。
不満点をあげる方が難しい。
この人の言葉には、いつも芯が通っている。
気遣いの仮面をかぶったおためごかしではなく、本物の誠実さがある。
この方は、たいへん高潔で……私に、とてもよくしてくれている。
辺境伯は、『私を貴族に昇格させるべきだ』と上に進言してくれたこともある。
……だが、それは、セミディアベル公爵の派閥に潰されてしまった。
有能な奴隷が、半永久的に貴族の手足になるというシステムは、ほとんど全て、セミディアベル公爵のせい。
公爵の一存で、夢が潰えた。
それが『政治』だと誰もが言う。
受け入れなければいけないことは理解している。
だが私の心には、ずっと『喉に刺さった小骨』のように、失った未来への渇望が残っている。
……まあ、セミディアベル公爵は、有能な奴隷のことを、重宝してくれるし、適度に褒美というアメをくれるから、正直、あの人に対し、『恨み』という点では、そこまで大きなものを抱えてはいないのだが……
……その辺が、あの人の怖いところだ。
ほぼ独裁的な、恐怖政治を敷いているくせに、アメの使い方は抜群だから、反乱分子がなかなか育たない。
奴隷としてコキ使われている私が、まったく殺意を抱いていないのだから、本当に大したものだと思う。




