77話 蝙蝠(こうもり)の7番視点(2)
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77話 蝙蝠の7番視点(2)
これまでの人生で、『夢の中で、とんでもない経験をしたこと』は何度もある。
昔、一度、『セミディアベル公爵を殺してしまう』という夢を見て、オロオロしてしまったこともある。
あの時も『夢のはずだ』と自分の正気を疑った。
あのときは、目覚めた瞬間に手のひらに汗がにじんでいて、頬をつたう涙に驚いた記憶がある。
夢と現実の境界が揺らいでいた。
だから、今回も、『夢のはずだ』『さっさと起きろ』と何度も自分に命令している……のだが、一向に、目がさめない。
何度まぶたをぎゅっと閉じても、何かが背中を撫でていくような冷気と、石畳の硬い感触は失われなかった。
このまま目が覚めなかったらどうしよう……
と、放心状態でいると、
――『女の魔王を召喚して男の魔王を倒した17番』が、
ふいに地面に出現した淡い光の上に乗った。
その光は、まるで水面を揺らす月の反射のように、淡く、輪郭が掴めなかった。
すると、17番の身体がスゥっと消えていく。
まるで霧が吸い込まれるように。何の抵抗もない様子で、そこに立っていた人間が輪郭から消えていった。
残された私も、光に近づいていった。
どうしたものかと2~3分ほど悩んだものの、
「ここにずっといるのもなぁ……」
腰に手をあてて、周囲を見渡す。
迷宮の壁は沈黙したままで、音ひとつしなかった。
風もない。まるで時が止まったようだった。
「どうせ、夢だし……」
それは、逃げの言葉だった。
本当は怖かった。
ただ、この光に触れたら、目が覚めるかもしれない――そんな一縷の期待にすがった。
そして私は、『淡い光』の上に立つ。
すると、
ヒュイン!!
と、体全体を包み込む、妙な気配と跳躍の波動。
耳鳴りに似た低い振動音が体内から響き出す。
胃袋の裏側が浮き上がるような、上下が反転するような奇妙な浮遊感。
視界が一瞬真っ白になった。
意識の境界がとけていく。
身体がどこにあるのか、一瞬、わからなくなった。
★
気づいた時には、背後に階段。
足元の硬さと、どこか埃っぽい空気の匂いが現実に引き戻してくる。
困惑しつつも、そのまま、階段を上がっていく。
一段ごとに足に重みを感じる。
身体は正常に動いているはずなのに、
魂だけが取り残されているようだった。
どうやら、光の転移で、1階に戻ってきていたらしく、
階段の上は、宿舎だった。
宿舎の明かりはいつもの通り。
見慣れた空間が、今は異様に遠い異国に感じられた。
警備員に話を聞くと、すでに17番は家に帰ったとのこと。
「……私が、17番の監視をしていたことは、言っていないな?」
「ええ、もちろん」
と、警備員は頷いてから、
「ところで、なんで、あの奴隷の監視を? あいつ、なにか犯罪でも?」
無神経な疑問に、神経を逆撫でされるような不快感を覚えた。
世界は何ひとつ変わっていないはずなのに、すべての色味が、とても薄く見える。
「……ぁあ……ぇと」
私は言いよどむ。
ちょっとだけ考えてから、
「ただの容疑者の一人……それ以上でもそれ以下でもない」
「は、はぁ……そうですか」
返ってきた返事の軽さに、かえって現実味を感じる。
さすがに、そろそろ受け入れるしかないだろう。
私が見たものは……夢ではない。
猿の17番は……魔王使いだ。




