72話 ノドがとれる。
72話 ノドがとれる。
モンジンの声が響くたび、ボクの視界の端がビリつき、世界が少しだけ明滅する。
なのに、身体の方は無風地帯みたいに静かで、
ただ喉元を通る水の余韻だけが残っていた。
――ああ、これは完全に『中』だけが被害を受けているパターンだ。
冷静に、そんな実感を得ながら、
ボクは顔色一つ変えず、内心で小さく首をすくめる。
そんな中、モンジンは、ずっと、
(ぐああああ! ぎぃいい!)
ぴーぴー、うるさい。
この根性なしめ。
それでも男ですか、軟弱者。
男っていうのはねぇ、どんな時でも、ドンと構えていないといかんのですよ。
……これも現代日本では性差別になるのかな?
それとも、ボクが転生したあとで、社会情勢が変わって、『そういうのは性差別的とは言わない』と判定されるようになったりしたのかな……?
(ノドがぁあああ! とれるぅうう!)
「君は幽霊だから、ノドとかないよ?」
(呑気カァアあああ! アアアアア! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア)
いくらなんでも騒ぎすぎじゃない?
オーバーじゃない?
……そんなにしんどいのかな?
わからないけど……たぶん、モンジンは、今、地獄の業火に焼かれながら、アクション映画ばりに転げ回っている……んだろうな……
マジで苦しそうだけど、ボクの方は特に何もなっていないから、気持ちが一ミリも分からない。
まあ、わかりたくもないけど。
他人の苦しみには寛容でいたいけど、この音量は、さすがに聞き過ごせない……
マジで、うるせぇ……
(ヌォオオオオオオオオ!!)
「ちょ、マジで、うるっさいなぁ……苦しいのは、もう十分に分かったから、そろそろ静かに苦しんでくれない? 『中』で喚かれるのって、すごいストレスなんだけど」
今この瞬間、ボクの精神状態は、
図書館で騒ぐ小学生を黙らせようとしている司書さんに近い。
(こっちが抱えているストレスは、その比じゃねぇんだよぉおお! ぐぬぬぬ……いぃ)
「あれ? なんか、おさまってきてない? いけそうじゃない?」
(お、おさまってねぇよ……ずっと、めちゃくちゃキツいんだよ……俺だったから、耐えられているが、俺じゃなかったら無理だった……お前だったら、確実にショック死していた……)
「ボク、結構、我慢強いから、耐えられると思うよ。過酷な奴隷生活を11年も耐えた男の根性をナメないでいただきたい」
ボク、根性に関しては、そこそこの自信があるんだよね。
普通の精神力だったら、とっくに自殺しているであろう地獄でも、ボクはジっと耐え忍んだ。
そんなボクを、ぜひとも、見習ってもらいたいところ。
残りは午後に投稿します(*´▽`*)




