71話 飲み干すと、ワンランク上の漢(おとこ)になれます。
71話 飲み干すと、ワンランク上の漢になれます。
ワクワクしながら、宝箱を開けた瞬間、内部から微かな光がこぼれる。
まるで呼吸するかのように、光は一瞬だけ強まり、すぐに消えた。
金属の蝶番がわずかに軋み、
小さな蒸気のような気泡が箱の隙間から立ちのぼる。
……前の時は、こんな凝った演出なかったけどな……
もしかして、宝箱にもランクがあるのだろうか……
……『超激レアの宝箱だったら光ります』……みたいな感じで。
中には、神殿の祭具のような透明なガラス瓶と、
古びた羊皮紙のような紙……説明書が一枚。
ビンの中には、無色透明の液体。
だが、その液面には、虹色の光が揺らぎ、
まるで静かに脈打っているようだった。
……正直言うと、グロい水だった。
綺麗なんだけどね……綺麗すぎると、もはやエグいよね……
前の時と同じく、ボクは、いったん説明書を取り出して、内容を確認してみた。
名称と効果が書かれていた……けど、
名称『超神聖水』
効果『飲み干すと、ワンランク上の漢になれる』
効果を読んでも、意味がさっぱり分からない。
『強くなれる』という解釈でいいのだろうか……
それにしても、ワンランク上の漢か……
女性が飲んだらどうなるんだろう……
カルシーン伯爵みたいな、イケメンの女子になるのだろうか……
転生前の世界だったら、たぶん、この説明書の表現を見て、『性差別だ』と認定する人もいたりするんだろうなぁ……
などと考えていると、
モンジンが、
(名前が怖ぇな……『ハンパない毒』である可能性が微レ存……)
と、ビビリながらつぶやく。
「長年放置されていたであろう液体を飲むのは確かに怖いところがあるけど……まあ、でも、ワンランク上の漢になりたいし……ここは勇気を見せるべきところ!」
などと言いつつ、ボクは、超神聖水を、グイっと一気に飲み干した。
味はなかった。普通に水だった。
特に何か変化があるようには感じない……
――ほんのわずかに、舌の奥で微かな冷気が広がったような気がしないでもないけど、それもすぐに引いていった。たぶん、気のせいだ。
なんて思っていると、
(うぎゃああああああああああ!!)
と、ボクの中で、モンジンがやかましく騒ぐ。
(喉がぁああああ! 焼けるぅうううう!!)
モンジンの悲鳴が頭の奥で炸裂するたび、
頭蓋骨の内側がガンガンと響く。
音ではなく、感覚そのものが揺さぶられているような奇妙な振動。
ワンパクな叫び声だけなのに、目と鼻が痛い。




