70話 お喋りしている間に、余裕でクリア。
70話 お喋りしている間に、余裕でクリア。
(テーゼで世界をのぞき見した時、人間はしばしば、その『名づけの過程そのもの』を真理と錯覚する。ゆえに、『神とは何か』を問うことは、突き詰めれば、『自己の認識限界をどう扱うか』というメタ的命題に行き着く。つまり――神という概念にどう向き合うか、その姿勢こそが、人間という知的存在の根源的な在り方を暴く鏡たりうる)
「そうだね。宇宙は膨張してるよね」
(お前は、まともに人と会話ができんのか)
「こっちのセリフなんだよなぁ。……モンジン……君って本当に面倒くさいよ。いちいち、深く考えすぎな気がする。もっとシンプルに受け止めるべきだと思うよ、もろもろ」
(お前は、考えてなさすぎる)
まあ……それは否定しない。
でも、考えすぎて頭パンクするよりは、ちょっとボンヤリしてるくらいが、たぶん生きやすいと思う。たぶんね。しらんけど。
……などとしゃべっている間に、しっかりと時間が過ぎて、タイムリミットまで1分を切っている。
なのに、まったく焦燥感がない。
さすがに、『そろそろダンジョン魔王も死ぬだろうな』って雰囲気で、場が満たされていたから。
空気が、明らかに終焉の予感でしめっぽくなっている。
パリピーニャの拳がうなるたびに、岩壁が半円に砕けて、粉塵が舞って、
ダンジョン魔王の顔から精気がなくなっていく。
その表情が、諦念と恐怖のあいだで引き裂かれているのが、ちょっと可哀想で、ちょっと滑稽だった。
そんな暴力的すぎる最前線で、
神という概念とポジショニングについて語り合っているこの状況が――
我ながら、本当にシュールだと思った。
「う……ぁ……」
最後には、白目をむいて、バタっと倒れこむダンジョン魔王。
お疲れ様。
君は頑張った。
感動した。嘘だけど。
……あとは、ゆっくり、お休み。
などと、心の中でねぎらいの言葉を送っていると、
倒れたダンジョン魔王の死体が、ヒュンヒュンと形と変えていく。
前の時と同じく、魔王の死体は、宝箱の形状に変化したのだった。
「今回は余裕をもってクリアできたね」
(……そう思わせておいて、実はミミックっていう、『前フリがシッカリしたタイプのカウンター』もありうるから気をつけろよ。何度も言っているが、この世界の底意地の悪さはハンパじゃない。常に最悪を想定し続けろ。時に、現実は、そのナナメ上をいく)
「君の、その心配性って、もはやただの病気なんじゃないかとも思ってきたよ」
本音を口にしつつ、
ボクはほとばしるワクワクと共に、宝箱を開けた。




