65話 負けフラグで『負けフラグの可能性』を圧迫していく。
65話 負けフラグで『負けフラグの可能性』を圧迫していく。
モンジンの魔王評価を聞いたボクは、小さくつぶやいた。
「……5か。プロゲステロンの時は7だったから、あの時の魔王より弱いんだね」
脳裏に、モンジンの冷静な分析が広がる。
(魔力の揺らぎは、やや静。オーラの質は陽。属性は黒地調和。……『丁寧に中距離から魔法を使って削りを入れてくるタイプ』の魔王。パリピーニャとの相性で言えば……最高。ぶっちゃけ、楽勝だろう)
「前の時より弱くて、かつ、相性的に最高? 勝ったな。風呂入ってくる」
軽口を叩きながら、ボクはあえて『負けフラグ』を全開で立ててみせた。
――掟破りの逆カウンター。
そんな軽妙なやり取りを続けていると、
ゆっくりと――玉座の魔王が、動いた。
ギィ……と、椅子が軋む音すら聞こえてきそうな、重々しい動作。
魔王は優雅に立ち上がる。目を細め、まるで舞台の主役のように静かに腕を持ち上げると、指を一本、天に向けて――
パチン。
乾いた音が、ダンジョンの空気を裂いた。
すると、彼が座っていた玉座が、
溶けるように、静かに地面へと沈んでいく。
「私のダンジョンを荒らす者よ……覚悟はいいな」
まるで朗読劇でも始めるかのような、芝居がかった威圧的なセリフ。
聞き覚えがある……というか、まるっきり前回と同じ。
プロゲステロンの魔王の時は、
豪快な覇気に押されて思わずチビりそうになったけど……今回は違う。
人は、なんにでも適応できる生き物。
その上で、ここまで、同じ流れをやってくれたら、緊張する方が難しい。
(魔王の圧に耐性ができてきたってわけでもないけど……慣れたな、これ)
魔王が片手を掲げる。
魔力が部屋中を満たしていく。
「死ね」
その言葉と同時に、足元から緻密な光の紋が広がった。
空間にびっしりと描かれる魔方陣。
前の魔王は脳筋突撃タイプだったから、こういう演出はなかったな……
と、そんなことをぼんやりと思いながら、
ボクはまるで間違い探しでもしているような気分で、魔王の動きを観察していた。
その横で、モンジンが静かに言葉を紡ぐ。
(――おいでませ、パリピーニャ)
足元の魔方陣から、まばゆい光とともに彼女が登場。
登場と同時に、彼女は爆風のごとき勢いでダンジョン魔王との距離を一気に詰める。
床の石がビシっとかけた。
前から思っていたけど、このダンジョン、頑丈だな……
ヒビとかは入るけど、全然壊れないもんね……
――ギュンッ!
ダダダダダ!
と、爆速の連打。
音が気持ちいい。




