59話 人間とは基本的に、追い込まれないと何もしないもの。
59話 人間とは基本的に、追い込まれないと何もしないもの。
《雅暦1001年7月14日》
今日、ボクは、軍資金を少しでも増やそうと、闘技場の大会に参加していた。
金はいくらあっても困らない。
マパネットが使えるので、ボクは最強。
今日も山ほど稼いでやる
……と、意気込んでいたのだが、
結果は……微妙。
くたびれ儲けではないが……そこまで稼げなかった。
前回優勝してしまったので、オッズがすごく低いのだ。
ラストローズ辺境伯に、ちょっと怪しまれた手前、
自分に対して、ガッツリと賭けるというのもやりづらい。
あと、普通に、『違和感なく勝つ』というのが難しくなってきている。
ボクが『麻痺攻撃を使うことができるゴブリン』を召喚できることは、対戦相手も観客も全員が知っている。
みんな、ゴブリンの一撃を警戒して、慎重に攻めてくるから、
試合が長引くこと、長引くこと……
もちろん、優秀な魔王マパネットがいるので、『優勝できない』ってことはないんだけど……最終的な儲けは、結局のところ、優勝賞金含めて90万ぐらい。
今までの貧乏人生を考えれば、十分な稼ぎなのだけれど……
前回の大勝を経験しているので、どうしても微妙に感じてしまう。
一度、大きな『勝利』を経験してしまうと、その後、小さな勝利を経験しても、あまり脳がヒリつかなくなる。
人間とは、なんて悲しい生き物なのだろう……
とか、そんなことを考えつつ、ボクは家路についた。
金を稼ぐ方法を考えないといけないなぁ……
とか、頭を回転させつつも、
しかし、微妙に頭が回らない。
なんだか、頭にモヤがかかっているような感じ。
これは、魔法とか、精神攻撃とか、そんな類のアレではない。
シンプルに……考えるのがしんどいのだ。
すでに、生きていく分には十分の額がある……というのが、脳の足枷になっている印象。
『夏休み8月31日理論』とでも名付けようか……
人は切羽詰まっている時は頑張るけど、
そうじゃないときは、怠けるようになっている……
みたいな感じの理論。
(おい、ふざけんな。本気で考えろ。とことん出世して、地位も金も名誉も全部手に入れて、望めば何でもできる立場になりやがれ。そして、俺を解放しろ。そういう約束だろうが)
「わかっているよ、うるさいな。もちろん、そのつもりだよ。ボクだって、まだ成り上がるつもりでいるよ。その欲望はちゃんとある。でも、難しいことを考えようとすると、脳の中で、ぐにゃぁっと、なんか、黒くなるというか……重くなるというか……『そういう面倒なことをしなきゃいけないなら、今のままでいいかなぁ』って考えちゃう……こういう気持ち、わからない?」




