58話 『針土竜(はりもぐら)の3番』視点。
58話 『針土竜の3番』視点。
あたしは『針土竜の3番』。
ウルベ男爵付きの奴隷で、魔王組に所属する幹部構成員。
そして、『地下迷宮研究会』のカナリア役だ。
あたしの最終目標は、ヤクザ連中全員と、頭の悪い貴族を漏れなくぶっ殺すこと。
出来の悪いゴミは全部綺麗に排除したい……と願っているが、
しかし、確実に、その前に過労死すると思う。
先日、上納金を回収しにいった事務所で、全員が謎の植物人間化しているという、面倒な事件に遭遇してしまい、その調査を押し付けられてしまった。
調査するだけなら、テキトーに『何も見つかりませんでした』と報告しておけば楽できるのだが、予想通り、あたしは、『ラストローズ辺境伯と魔王会の連絡係』的なポジションを押し付けられてしまい、なんやかんや、あっちこっち右往左往させられている。
植物人間事件が起こる前から、ヤクザ側からも、貴族側からも、便利に酷使され、仕事を山ほど抱えているのに、こんな面倒事まで抱えて眩暈がしそう。
その上で、最も大変な『地下迷宮研究会のカナリア』としての仕事もこなさないといけない。
そろそろ『地下迷宮定期調査』だから、その準備もしないといけないのだ。
……きつい……正直……
「……アネゴ、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
部下である『猿の98番』が、心配そうに、そう声をかけてきた。
98番は、愛嬌はあるけど、要領が悪いタイプのガキ。
あたしのことを、本気で慕ってくれているようなので、命令をすれば、なんでも、全力でこなそうとしてくれる。
それ自体はありがたいのだが……正直、もっと、有能な部下がほしい。
あまり、こんなこと言いたくないが……98番は、絶妙に使えない。
余裕がある時なら、『まあ、いいか』と流せることも、
切羽詰まっていると、どうしてもイライラしてしまう。
とはいえ、そのイライラをぶつけるような理不尽クズ上司にはなりたくなかったので、あたしは、どうにか感情を抑え込んで、
「あまり大丈夫ではないが……やるしかない。今度の定期調査は、これまでのように、セミディアベル公爵の仕切りではなく、ラストローズ辺境伯主導で挑むことになる。別に、どの貴族が仕切ろうと、それ自体に関してはどうでもいいが……上が変わると、方針やシステムが変わってしまう。連絡の回し方とか、根回しの対象とか、報告書の作成の仕方とか、そういう小さなことも含めてな。もう、これ以上、仕事を増やしてほしくない……というタイミングで、なんで指揮官が変わるのか……はぁ……」




