56話 ラストローズ辺境伯視点(2)
56話 ラストローズ辺境伯視点(2)
『迷宮をクリアすれば、とてつもない宝が手に入るらしい』というウワサを信じて迷宮に挑戦するバカは、だいたい、地下1階で死ぬ。
地下迷宮は、この巨大都市内部に全部で100ほどあるが、どこも難易度は異次元。
『難易度の低い迷宮』は一つも存在しない。
どの迷宮でも、地下1階から、容赦なく『貴族級の力をもったモンスター』が出現して、問答無用で襲い掛かってくる。
私も、これまでに、何度か、チームを組んで挑戦したことがあるが、地下3階に進むので精一杯だった。
――そこで、私は、ふと考える。
『魔王の力』を使えば、クリアすることも可能なのではないか、と。
仮に、魔王を自由に使役できれば、地下迷宮に出てくるモンスターをなぎ倒し、最下層までいけるのではないか、と。
「7番……」
「はい、なんでしょうか」
「17番が、魔王召喚の力を使いダンジョンをクリアした……という可能性はありえると思うか?」
「……ぇと、それは……本気でおっしゃっているのですか?」
「いや、あくまでも、推測の話だから、本気も何もないのだが……君はどう思うか、という話がしたいだけだ」
「もし、魔王を自由に召喚・使役できるのであれば、可能性はあると思います」
「……ふむ」
「ただ、それほどの力が、もし本当にあるのであれば……わざわざダンジョンに挑んだりしないと思います」
「ほう、それは……つまり?」
「仮の話ですが……もし、私に魔王を召喚する力があったら、その力をフル活用し、自分より上位の貴族を皆殺しにして、トップの座につこうとするでしょう」
「君はそういうことをしなさそうだが……」
「確かに、実際のところ、私が魔王召喚の力を得ても、皆さまを殺すことはないかもしれません……しかし、大概の者はそうするような気がします。魔王の力とは、それほど強大なものです。それだけの膨大な力を持っていながら、いつまでも奴隷に甘んじているなど……考えられません」
「……」
「ラストローズ辺境伯の推理はお聞きしておりますので、17番を怪しむ気持ちは分からなくもありません。現状だと、ほぼ唯一の容疑者。彼が魔王使いだとしたら辻褄があう箇所は複数ある。状況証拠だけはそれなりに豊富。けれど、私が観察した限りにおいて、『猿の17番』はただのバカです。そんな大層な力を持っているとは、正直、考えられません」
この世界において、『強大な力』を持つ者は、たいがい、『優れた知性』を併せ持つ。
もちろん例外もあるが……基本的にはそうなっている。




