55話 ラストローズ辺境伯視点。
55話 ラストローズ辺境伯視点。
あれ以来、特に目立った事件はない。
結局、魔王が出現したという報告もゼロ。
明確に『魔王を目撃した』と言っているのは、いまだポルだけ。
他には一人も、『都市内部で魔王を見た者』は現れていない。
ポルの奴隷である『猿の17番』も、比較的怪しいというだけで、彼が魔王使いであるという決定的な証拠のようなものはない。
『魔王組の植物人間化異常事件』に関しても、
『魔王がやった』と断定できるレベルのものではない。
少なくとも、証拠のようなものは何も見つかっていない。
散々調べたが、現時点では、結局、目撃証言なども一切なし。
カルシーン伯爵の魔法でも治らない状態異常なので、人間がやったとは思えない。
『魔王がやった』と仮定すればシックリくるのは事実だが……しかし、セミディアベル公爵がおっしゃったように、『特殊な感染症』の可能性も捨てきれないのが現状。
今も配下に調査を続けさせているが……今後、この捜査が進展するようには思えない。
……ちなみに、現時点で最も怪しい容疑者『猿の17番』の動向は、配下の『忍』に、シッカリと、調べさせている。
私のシノビ……『蝙蝠の7番』は、非常に優秀な女性。
私は、彼女を全面的に信頼している。
「……17番の調査、ご苦労様。……で? 何か怪しいところは見つかったか?」
定例の調査報告に来た彼女にそう尋ねるが、
「いえ、特に何も」
彼女は、首を軽く横に振ってから、『猿の17番』の行動について、細かく報告してくれた。
「ほう……迷宮に挑戦……それで?」
「挑戦料の50万を支払ったようですが、結局、迷宮に挑戦することはなく、逃げ帰っておりました。正直、愚かしいとしか言いようがありません」
話によると、蝙蝠の7番は、『猿の17番が、地下迷宮の入り口を監視している宿舎に入ったところ』までしか監視していない様子。
まあ、それも当然の話。
中に入ろうとすれば50万が必要だし、
彼女一人だけで中に入れば普通に死んでしまう可能性もある。
17番の監視に、そこまで命を張ることはない。
「50万を無駄にしたのは愚かだが……しかし、逆に賢いとも言える。ダンジョンは本当に危険な場所。無謀に挑戦しても死ぬだけだ」
迷宮に挑んで一獲千金を狙う命知らずのバカはたまにいる。
『迷宮をクリアすれば、とてつもない宝が手に入るらしい』というウワサばかりが一人歩きしているから。
……迷宮の本当の恐ろしさは中に入った者しか分からない。




