53話 お前、勉強しろ。
53話 お前、勉強しろ。
《雅暦1001年7月12日 夜》
帰還報告書にサインしてから、ボクは家路についた。
空はもう真っ暗だった。
見上げると、龍型の魔王が飛んでいたけど、暗くてよく見えない。
……帰り道の途中で、ふと、ダンジョン内での事を思い出し、背筋が凍った。
今回は、なんとか、パリピーニャが時間内に倒してくれたけど、
もし、普通に時間切れになっていたら……そう思うと、ブルブルと震えだす。
恐怖体験っていうのは、体験している時はそうでもないけど、あとからだんだんジワジワと膨らんでくるもの。
「やっぱり、もうダンジョン探索は、やめておこうかなぁ……んー、でも、宝は欲しい……」
悩みながら、モンジンに、
「ねぇ、どう思う?」
そう尋ねると、
(やめろって言ったらやめるのか?)
「いやぁ……でも、宝は欲しいしぃ……結局、人は脳汁の奴隷だしぃ……でも、怖いしぃ……どうしよっかなぁ」
(……煮え切らねぇやつだな。マジでイライラする)
「そ、そんな……本気で怒らなくても。ただの冗談じゃないか」
(17番、お前、ちょっと勉強しろ)
「はい? 勉強?」
(もしくは読書。お前の頭の悪さは、正直、怖い。言葉と知識を頭に詰め込んで、シナプスを強化しろ。思考力を磨いて、未来を演算する力を獲得するんだ。正直、今のお前に運命はたくせねぇ)
「未来を演算って……そんなことできるワケないよね」
(未来予知をしろって言っているわけじゃない。目の前の現実と向き合った際の選択肢を増やせと言っている。知識がないやつは、選択肢の幅が少ない。アタマの回転速度が足りないやつは、知識があっても、選択肢を捻出できない。死ぬほど賢くなれとは言わないが、最低限の『知性』は身につけろ)
「ごめん、何いっているか、ちょっとわかんない……」
(は? 何がわからない?!)
「正直な話をするけど……10秒以上かかる言葉は、あんまり理解ができない。いや、なんとなく、『賢くなれ』って言われているのは分かるんだけど……選択肢がどうとか、小難しい話をされても……よく分からない。ぶっちゃけ、今までもずっとそうだよ。モンジンが、ちょっと難しいことを言うたび、ボクは返事をしつつも、ちゃんと聞いてはいなかった」
(マジでか……本格的に頭悪ぃ、こいつ。……やばぃ、イライラする……なんか……誰かが恋しい……)
「だれか? だれ?」
(俺は、かつて、めちゃくちゃ頭いいやつとバディを組んでいたような、そんな気がする……そいつが恋しい……)