34話 『プロゲステロンの地下迷宮』
34話 『プロゲステロンの地下迷宮』
「ほんと、バカだな、お前。俺も、昔、一度挑戦したから分かるんだが……お前じゃ、地下1階で確実に殺される」
「わかりました、わかりました。もう、ぜんぶわかりましたから、はやくハンコくださいよ。条件的に、問題はないはずですよ」
「ちっ。まったく……この大バカが」
なんとか、申請書にハンコを押してくれる兄ちゃん。
その後、『死んでも文句言わない。その際、供託所に預けている財産等は全て没収』などの契約書にサインをする。
そして、挑戦料である50万ユウガを払った。
「48,49,50……間違いなく、50万だな。これで、手続きは完了だ。この通行証を、プロゲステロンの警備員に見せれば、ダンジョンに挑戦できる」
「今夜から、大丈夫ですよね」
「……お前、まさか、今から行く気か?」
「ええ」
「……今日がお前の命日か……どうする? 葬式代を先に払っておくか? そうすれば、下(1階)の礼拝堂で正式に弔ってくれるぞ。一番安いので200万」
「払いませんよ。死んだら『野ざらし』で構いませんので。……じゃあ、そういうことで」
そう言って、ボクは礼拝堂を後にする。
こうして、ボクは、このエリアに存在するダンジョン――『プロゲステロンの地下迷宮』に挑戦できるようになった。
……ここから先は、パリピーニャのご機嫌しだいだ。
頑張ってくれよ、パリピーニャ。
ボクは、後ろから全力で応援させてもらうぞ、パリピーニャ!
★
礼拝堂から歩いて10分。
地下迷宮の入り口は、どこも、『大きな宿舎の中』にある。
執行部から派遣されている警備員が、泊まり込みの交代制で四六時中監視しているのだ。
『プロゲステロンの地下迷宮』
地下何階なのか、最奥にどんな宝が眠っているのか、誰も分からない。
歴史上、まだ、誰も攻略したことがない未踏破領域。
うん、普通にワクワクするよね。
いやぁ……ようやくだよ。
ようやく、異世界転生っぽいことができる。
「あのぉ、すいません……地下迷宮に挑戦したいんですけど。あ、これ、通行証です」
そう言いながら、ボクは、『先ほど、礼拝堂の出張所でもらった小さな札』を、警備員に見せる。
30代後半のオッサン警備員は、
通行証をまじまじと確認してから、
ボクの顔を見て、
「サードアイ」
ボソっと、そうつぶやいた。
「……存在値9? よわっ……お前、本気か?」
サードアイは、相手の存在値がデジタルに分かる魔法じゃないけど、
特別な才能がある人なら正確な数字が分かったりもするらしい。
……どうやら、この人は、ただのしょぼい警備員に見えて、実は、特別な才能を持っているっぽい。