32話 ラストローズ辺境伯視点(7)
32話 ラストローズ辺境伯視点(7)
「私から言わせれば、その奴隷は、あまりにも怪しすぎる。だからこそ、スケープゴートにされているようにしか思えんよ」
(……言われてみれば……でも、だとしたら、犯人は……)
そこで、私はチラっと、セミディアベル公爵の顔を見る。
この人は有能。
とても賢く、破格の力を持っていて……そして、なにより、おぞましいほど狡猾だ。
……この人なら、魔王を召喚し、使役することも……不可能ではないだろう。
そして、捜査の手が自身に及ばないよう裏から手を回すことも容易。
「色々と、突飛な推論を口にしたが……しかし、私は、最初から言っているように、そもそも、魔王の出現というのに対して非常に懐疑的だ」
もし、セミディアベル公爵が魔王使いなら……『魔王が都市内部に入ってくることなどありえない』というスタンスを取り続けることに合点がいく。
魔王使いからすれば『魔王が内部に入り込むことはありえないという前提』が崩れない方が得なのだから。
「……私としては、『魔王が都市内部に入り込んでいる可能性』よりも、『特殊な感染症が蔓延している可能性』の方が、はるかに高いと思うね」
「感染症……ですか」
「魔王に襲われたという幻覚を見てしまったり、植物人間状態になってしまったり……そんな病気が広がり始めているという可能性の方が、『魔王が都市内部に出現する可能性』より、よっぽどありえると思うよ」
「……」
「なんにせよ、現状だと、あまりにも情報が足りない……シッカリと調べる必要があるだろう。できれば、私も協力したいところだが、色々とたてこんでいてね。……あ、そうだ。『地下迷宮研究会』の指揮権を一時的に、君に譲ろう。魔王が都市内部に出現しているかどうかは知らんが、奇妙な事件が起きていることは事実だ。私が保有する部隊の中で、『もっとも有能なチーム(地下迷宮研究会)』を貸し与えるので、ぜひとも、真相を掴んでほしい。巨大都市ユウガの平和と安寧のために」
「……かしこまりました、閣下」
地下迷宮研究会は、何百年も前に、『この巨大都市ユウガに100以上存在するダンジョン』の『攻略』を目的として結成された、セミディアベル公爵をトップとする、由緒ある特殊部隊。
中心メンバーは、素晴らしい力を持った上位貴族たちであり、わきを固めているサポートメンバーも、『平民・奴隷』の中で、最高峰の上澄みばかり。
『カルシーン卿』や、『針土竜の3番』も、地下迷宮研究会に所属している。
「あ、いや……でも、地下迷宮研究会を貸すのはやめておいた方がいいかな」
「ぇ、セミディアベル公爵……な、なぜ、急に、そんな……」
「だって、ほら……地下迷宮研究会を使っていながら、なんの成果も出せなかったら、君の立場がないだろう? 私は君を貶めたいわけではないのでね。うん、やはり、やめておこう。今のままなら、捜査に失敗したとしても、『手ゴマが足りなかったから』という言い訳ができる。その方が君としては気が楽だろう。うん」
まったく……本当に……人をイラつかせるのが得意な人だ……
「……閣下が誇る特殊部隊を、ぜひ、お貸し頂きたい。ぜひとも。この通りです」
そう言って、強固な姿勢で頭を下げる私に、
セミディアベル公爵は、
「くくく……君は、実に、かわいいねぇ。若い、若い」
と、そんな不愉快な言葉を投げかけてきた。
本当に……嫌いだ。




