30話 ラストローズ辺境伯視点(5)
30話 ラストローズ辺境伯視点(5)
「それは……どういう意味でしょう」
「正直な話、私は、魔王が都市内部に潜入することはありえないと考えている……が、それでは、君にとって『話にならない』だろうから、『都市内部で魔王を召喚できる者がいる』と仮定して話を進めさせてもらう」
「はい、よろしくお願いします」
「結論を先に言おう。……奴隷が『魔王を召喚し使役できるほどの力』を得ることはありえない。それが、第一の結論だ。あくまでも私にとっての結論だがね。ここまではいいかな?」
「……はい」
「魔王を召喚できる者……ここでは、そうだな『魔王使い』と呼称しておこうか。……その魔王使いは、『おそろしく有能な者』だろう。有能でなければ、魔王を召喚することも使役することも出来ないだろうからね」
それは私もそう思う。
もちろん、そうではない可能性もゼロではないだろうが……
しかし、そんなことを言い出したら、すべての『ゼロではない可能性』を列挙していく必要性が出てくる。
暗中模索極まりない現状だと、『ゼロではない可能性』は無限。
無限と向き合うのは合理的じゃない。
「魔王使いは魔王を召喚し使役できるほどの、おそろしく有能な者。……それほど有能な者であれば……その智謀を駆使して、『己以外の他者に疑いの目を向けさせること』も容易だろうね」
「……」
「消耗品の奴隷などは、身代わりの生贄として最適だ。仮に、その……何番だったか忘れたが……君が疑っている奴隷を捕まえたとしよう」
「猿の17番です」
「17番を捕まえ、処刑したとする。あくまでも仮の話だがね」
「はい」
「そうなっても、おそらく、問題は解決しないだろうね。奇異な事件は続き、そして、君は、また、新しい生贄……別の奴隷を疑いだす……と私は予測する」
「……」
「ここから先は、さらに踏み込んだ極論だということを踏まえた上で聞いてほしいのだが……魔王使いは、君でも成立しえるのではないかね、ラストローズくん」
「……ぇ」
「あくまでも例えばの話だが……君が、魔王使いだった場合、非常に賢く立ち回るだろう。まずは、バレないように、テキトーな奴隷に容疑がかかるように魔王をコントロールする。えらんだ奴隷の主人を、魔王に襲わせ、奴隷を大会に勝たせ、反社会的組織の構成員を使って事務所に来るよう誘導した上で、その構成員を殺し、罪を奴隷になすりつける。これで、君は疑われない。その奴隷を完璧なスケープゴートにできる」
「……」
「私としては、そちらの推論の方が、遥かに合理的であるように思うのだが……君はどうかな?」




