29話 ラストローズ辺境伯視点(4)
29話 ラストローズ辺境伯視点(4)
「――魔王が相手では、流石の私でも、相手にならないだろうけれどね、ふふふ、はっはっは」
「セミディアベル公爵……失礼ですが、笑い事ではないかと存じます」
「ふふ……いやぁ、失礼。バカにしているわけではないのだがね……ただ、魔王が結界内に出現したにしては『あまり、大きな騒ぎにもなっていないなぁ』と首をかしげているだけさ。もしかして、あれかな? 結界内に出現した魔王は、我々に討伐されるのを恐れて、こそこそ、隠れて逃げ回っているのかな? ははは。魔王は、君が1000人いても勝てない怪物なんだがねぇ。いったい、なにを、そんなに恐れているのだろうか。……なにか思い当たる節があるかい、ラストローズくん」
「……」
本当に嫌な人だ。
この人は、シンプルに性格が悪い。
間違いなく有能な方なのだが……本当に性根が腐っているのだ。
子供の時から、正直、ずっと、大嫌いだった。
「そんな顔しないでくれたまえ、ラストローズくん。知っての通り、私は、君の敵ではないよ。『父のように思ってくれていい』とすら思っている」
「……ありがとうございます。大変、光栄に存じます」
「うむうむ」
と、セミディアベル公爵は、嘘くさいニコニコ顔でそう言うと、
「ラストローズくん……いまの君の顔には、ハッキリと、『誰かに相談したい』と書いてある。私も忙しい身であるため、相談受付などはしていないのだが……かわいい君のために、少しだけ時間をとろう。さあ、なんでも相談したまえ」
鬱陶しいな。
許されるなら、殴り飛ばしたいところだ……
「ありがとうございます……セミディアベル公爵」
正直、この人に相談なんかしたくないが……
しかし、この人が、とんでもなく有能であるのは、私も認めるところ……
どうせ、すでにとことんバカにされているのだから、取り繕う必要はない。
いっそ、本気で相談してみるか。
「実は――」
私は、今回の魔王問題に関する詳細を報告すると共に、
「――以上が私の推論なのですが……セミディアベル公爵は、それらの疑問点について、どう思われますか?」
『猿の17番が犯人である可能性』について、
セミディアベル公爵がどのようにお考えになるかを尋ねた。
「ふむ……なるほど、なるほど」
公爵は、私の発言を咀嚼するように、何度か、頷いてから、
「ラストローズくん……君は、どうやら、『自分の考えに固執するところ』があるようだ。それではいけない。もっと柔軟さをもたなければ」




