27話 ラストローズ辺境伯視点(2)
27話 ラストローズ辺境伯視点(2)
「うーむ……」
頭を抱えて悩んでしまう。
……実際のところ、現状だと不明なことが多すぎる
『魔王が現れた』と仮定した方が『合理的なケース』が多々あるものの、
今のところ、まだ、『明確な目撃情報』が乏しい。
平民ポルの体験情報だけでは……こちらとしても、イマイチ動きようがない。
「……トバヒト子爵。魔王組の実質トップであるあなたの意見も聞かせていただきたい」
トバヒト子爵は、『外周西南西エリア5~10の統治』と『魔王組全体の統括』を担っている五十路の貴族。
正直な話、トバヒト子爵は、『あまり信頼がおける相手ではない』のだが……
彼の人事に関しては、私よりも上役の『セミディアベル公爵』の息がかかっているので、
下手な扱いをすることができない。
本来であれば、外周に関する人事は全て私が担うことになっているのだが、
裏社会関連は、セミディアベル公爵の専門分野なので、
どうしても、閣下の介入を認めざるをえないのが実情。
この点に関しては、パメラノ先生も、セミディアベル公爵と何度か話し合っているらしいが、どちらも非常に我が強いタイプなので、永遠に平行線のまま。
どちらもランクは『公爵』で同じではあるが、セミディアベル公爵の方が、公爵としての歴が長いので、パメラノ先生も、セミディアベル公爵には、そこまで強く出られない模様。
「非常に……遺憾であります」
「トバヒト子爵……それだけか?」
「今のところ、あまりにも情報が足りなさすぎますので、判断のしようがありません。……私の方でも、独自のルートで調査を進めておりますが、全く何の手がかりもつかめておりません。……まったく……いったい、どこの貴族が、あんな非常識な真似をやらかしたのやら」
「トバヒト子爵……あなたは、『貴族の犯行』だと思っているのか?」
「私も、被害者の状態は確認しております。……アレほどの異常を実現できるのは、最低でも『子爵』以上の力を持った者でしょう。平民や男爵程度では、とてもとても……」
「……『魔王の犯行である』という可能性は……一切、考慮していないのか?」
「魔王が? ははは、ラストローズ辺境伯、およしになってください。魔王は、結界内に入れませんよ」
「……」
「どうやら、どこぞの平民が『魔王に襲われた』などとイカれたことをホザいているようですが……まさか、そんな世迷言を信じているわけではありますまい?」
「諸々の状況を踏まえると……その可能性も、考慮すべきだと、私は考える」
「ははは、辺境伯! やはり、まだ、お若い! ははははは!」
こうも、あからさまにバカにされ、笑われてしまうと、
さすがに、実直に……腹が立つ。
とはいえ、その怒りをそのまま口にすることは出来ない。
本来の階級差を考えれば、
『このままトバヒト子爵の首をはねても問題ない』……のだが、
――『セミディアベル公爵派閥の貴族』相手に、迂闊なことは出来ない。
貴族間の人間関係とは……本当に厄介なものだ。
どこまで上がっても、結局、何かしらのしがらみに苛まれてしまう。
その後も会議は続いたが、結局のところ、
『慎重に調査を継続する』という、なんの進展もない結論で幕を閉じた。
……なんて無駄な時間なんだ……
生産性の薄い時間が、私は大嫌いだ。




