26話 ラストローズ辺境伯視点
26話 ラストローズ辺境伯視点
《雅暦1001年7月12日 早朝》
私はラストローズ辺境伯。
外周を統括している貴族だ。
本日、『魔王組の事務所で起こった事件』に関する緊急会議が開かれた。
二日前の『7月10日の午前中』に起きた、魔王組事務所襲撃事件。
極めて奇怪な事件で、被害者は、魔王組の構成員11名。
全員が、『死んではいないが、死んでいるのとほぼ変わらない状態』という、いわゆる『植物人間状態』で発見された。
カルシーン伯爵の協力を得て、被害者全員に『高ランクの回復魔法』をかけてもらったが、まったく歯が立たず、今も、被害者11名は、植物状態のまま、神殿のベッドで経過観察を行っている。
魔王組の構成員と、私の配下数名で、真相究明のための捜査をしてもらったが、
『犯人につながる決定的な証拠』などは一切見つからなかった。
唯一の手掛かりは、
あの日、事務所に足を運んだという奴隷。
魔王事件の関係者でもある『猿の17番』。
魔王組幹部の『針土竜の3番』が、17番に事情を聴きに行ったところ、その日、17番は、確かに、事務所に向かったらしいが、
『ノックをしても誰も出てこなかったから、事務所に入ることなく家に帰った』……と証言しているらしい。
正直、怪しいと言えば怪しい。
が、決めつけるのもよくないだろう。
「3番……きみの率直な意見を聞きたい。17番の事情聴取をした際、なにか、違和感などはなかったか?」
針土竜の3番に尋ねてみると、
「違和感? いえ、別に……」
「何かを隠しているような仕草や……うしろめたさ等を感じなかったか?」
「特に何も。……あのぉ……辺境伯は、もしかして、あの奴隷をお疑いで? それはありえないと思いますよ。猿の17番は、何の力も持たない、ただの凡庸な奴隷です」
私もそう思う。
しかし、こう立て続けに、『怪しい状況証拠』を突き付けられてしまうと、
疑わざるを得ない。
もし私の推察が『真』で……猿の17番が『魔王をコントロールできる力』をもっていたとしたら……今回のような事件を引き起こすことも不可能ではない。
……現状、確定的な証拠は何もない。
あるのは、不明瞭な状況証拠のみ。
もう一度、私が直接、17番に話を聞くか……
いや、聞いたところで、どうなる……
仮に、『本当に、犯人だった』としても、『知らない』と嘘をつかれて終わりだ。
そして、こちらには、その嘘を突き崩す物的証拠も証言も何もない。
できれば、パメラノ先生に相談したいところ。
……だが、昨日、魔王事件について、私の直属上司である『パメラノコット公爵』に相談したところ、
『証拠と情報が足りん』
『そもそも自分の領地のことは自分で考えんか』
『魔王が本当に現れたとしたら大問題じゃが、大問題じゃからこそ、自分の力で処理せよ。それが、いずれ頂点に立つ者の責務である』
とバッサリ切り捨てられて終わってしまった。
だから、正直、頼りづらいところである。




