21話 『ちょっと、マジでわかんないっすねぇ』という、全力のおとぼけ顔。
21話 『ちょっと、マジでわかんないっすねぇ』という、全力のおとぼけ顔。
「話を聞きたいだけだ。昨日、あんたが事務所に行った時、なにか、おかしなことはなかったか? 妙なやつとすれ違ったとか」
ここでボクは頭を悩ます。
嘘をつくべきか否か。
『めちゃくちゃ怪しい奴とすれ違いました。金髪ウェーブで身長2メートルを超えるスキンヘッドの小柄なお婆ちゃんでした』
と、発見しようのない『架空の人物』に『罪をなすりつけること』も考えた……
が、
リスクのわりにリターンが少ないような気がしたので、
ここは、特に奇をてらわず、
「いや、特には……」
と、言葉数は最小限にして、かるく首だけかしげておく。
この時の表情には、かなり気をつけた。
『ちょっと、マジでわかんないっすねぇ』という、全力のおとぼけ顔をしてみせる。
『やりすぎの表情』にはならないよう注意しつつ、でも『困惑している雰囲気』はシッカリとにじませる。
「そうか……収穫なしか……まあ、もともと大して期待していなかったが」
働き詰めのサラリーマンばりの溜息をついてから、
「……わかった。もう用はない。邪魔したな」
そう言って、黒髪翠眼のお姉さん……『針土竜の3番』は、きびすを返して帰ろうとする。
その背中に、ボクは一応、
「あ、あの……お金はどうしたら……これ、取り立てじゃないんですか?」
「あたしは上納金に困っていない」
と、そう言い捨てた直後、
彼女の金魚のフン『猿の98番』が、
「ぁ、アネゴ、じゃあ、あいつが51番に払う予定だった金、俺がもらってもいいですか?」
「あんたも今のところ、金には困ってないだろう。『過剰な欲は持つな』って、何度言わせれば気がすむんだ、バカ」
「へへへ……すいません、アネゴ」
あの奴隷ヤンキー……なんだか、怒られて楽しそうだ。
……ドMの変態なのだろうか。
やだねぇ、変態は。
まあ、それはそうと……もしかして、この3番が……昨日、51番が言っていた『アネゴ』とやらだろうか。
……あの時、51番は、『アネゴがくるから準備をする』みたいな話をしていた。
つまり、流れとしては、『ボクが51番たちを植物人間にしたあと』で、『3番が、その事態を発見』し、流れのまま『その犯人を捜している』……みたいな感じかな。
『昨日、ボクが、事務所を訪ねる予定だったこと』を、3番が、どこで知ったのか……
聞いておいた方がいいかな?
……いや、別に、いいか……
『変なところに興味を持つヤツだ』という印象を与える方がやばいかもしれないし。




