18話 『針土竜(はりもぐら)の3番』視点。
18話 『針土竜の3番』視点。
あたしは『針土竜の3番』。
性別は女。
『漆黒の髪』と『切り傷のような鋭い目つきの翠眼』が自慢のヤクザ。
ウルベ男爵付きの奴隷で、魔王組に所属する幹部構成員。
ほかにも、『地下迷宮研究会』のカナリア役も務めていたりするが、それは、まあいい。
……構成員連中からは『アネゴ』と呼ばれて懐かれているが、正直、やめてほしい。
あんなカスどもに慕われても、嬉しくもなんともない。
あたしの最終目標は、ヤクザ連中全員と、頭の悪い貴族を漏れなくぶっ殺すことだ。
出来の悪いゴミは全部綺麗に排除したい……それが私の願い。
……まあ、それが出来るだけの力と才を持っていないから、最終目標とは言いつつも、今のところは、ただの夢物語だが。
……夢はいい。
生きる気力がわく。
「……あ、アネゴ……これは、いったい……」
部下である『猿の98番』が、うろたえながら、そう言った。
今日は、事務所まで足を運び、上納金回収にきたのだが、
……構成員が全員、死んでいた。
……いや、正確には死んでいなかった。
「脈があるし、息もしている……こんな状態で、こいつら、死んでいないのか……」
倒れている構成員たちの状態を細かくチェックしていく。
「治癒ランク5」
回復魔法を使ってみたが、
「……はじき飛ばされる……」
『修羅場』で命を削ってきた『あたし』の『回復魔法』は、そこらの神官よりも質が高い。
なのに、一切、通じない。
「こいつらから感じる、この禍々(まがまが)しい瘴気……あたしの魔法どころか、カルシーン伯爵の魔法でも通じなさそうだ」
ちなみに、あたしが言う『修羅場』っていうのは、ヤクザの世界どうこうの話じゃない。
ヤクザなんて、『地下迷宮の怪物たち』と比べたら、ガキみたいなものだ。
まあ、その『地下迷宮の怪物たち』も『外を闊歩している魔王』と比べたらカスみたいなものなのだけれど。
魔王は、本当にヤバすぎる。
挑む気にもならない。
……時折、思う。
都市の外にいる、あの強大な力を持つ魔王たちが、
この巨大都市ユウガになだれこんできて、
クソどもを一掃してくれたら……と。
まあ、そんなことはありえないが。
それに、もし、魔王がなだれこんできたら、
クソどもだけじゃなく、真っ当なヤツも、全員死んでしまうしね。
「あ、アネゴ……ど、どうしましょう……こ、こ、これ、一大事ですよね……」
「そうだな。そこらの一大事とは、ちょっとレベルが違う一大事だな。……こんなイカれた真似ができるのは、上位貴族ぐらいだと思うんだが」
「ほ、ほかの区域の貴族がやった……んでしょうか?」
「その可能性が一番高い……が、ウルベ男爵も、その上のカルシーン伯爵も……別に、他の区域の貴族と敵対はしていなかったと思うが」
「そ、そうですよね。最近では、『ちょっとした小競り合いの話』とかも、ほとんど聞きませんし……」
「となると……まさか、カルシーン伯爵がやったのか? あの人は、過激な人権派だからな……魔王組を『必要悪』だと理解はしているようだったが、『良い感情』は抱いていなかった……いつも、あたしらヤクザのことを、ゴミを見る目でニラんでいた」
「いくらカルシーン伯爵とはいえ、アネゴをニラむなんて許せねぇ!」
と、感情的になって鼻息を荒くする98番を、
「うるさいよ」
と、なだめつつ、
「カルシーン伯爵は、弱者を過剰に慈しむ変人だが、決してバカじゃない。そもそも、あの人のビルド的に、こんなマネができるかどうかも怪しい。あの人があつかっているのは正義系の魔法ばかりで、悪系の魔法は一切使えなかったんじゃないかな。だから、たぶん、カルシーン伯爵は犯人じゃない。となると、誰が……」
……自慢じゃないが、あたしは、『貴族(子爵)クラスの力』を持っている。
あたしは『便利な女』なので、首輪をつけられ、『奴隷のまま、いいように扱われている』が、能力的には、高位の貴族と大差ない。
そんなあたしの回復魔法が通じないほどの悪意。
こんなことができるのは……『上位貴族級の力を持っている者』に限られる。
だが、こんなことをする『イカれた上位貴族』に思い当たる節がない。
上位貴族連中は、全員賢いから、
あたしらのことを利用はするが、無意味に壊そうとはしない。
上位貴族は、アホのウルベ卿みたいな『八つ当たりで奴隷をイジメるようなバカ』とは違うのだ。
……あたしら『ヤクザ』は、クズどもの受け皿。
人間というのは、不可思議なもので、10人に1人ぐらいの割合で、あたしたちみたいな『不良品』・『クズ』・『悪人』が生まれてしまう。
そんなゴミどもを野放しにしていたら、無秩序の大破壊・大混乱が起きてしまう。
だから、『魔王組』という『クズの受け皿』・『掃きだめ』が必要なんだ。
閉じ込めて、管理して、いざとなれば適切に処分する。
★
……何か手がかりがないかと、軽く事務所を調べていると、
『鴉の51番の手帳』を見つけた。
中を見てみると、
「……51番は、今日の午前中に、奴隷から金を受け取る約束をしていたのか……名前は……『猿の17番』……」
「あ、アネゴ! 俺、閃きました! もしかしたら、その奴隷が犯人じゃないですかね!」
「あんた、ほんとバカだね。……奴隷にこんなマネはできないよ」
98番は、愛嬌はあるけど、頭が悪い。
命令には従順だけれど、要領が悪い。
「…………だが、この猿の17番って奴隷が、『何かを見た可能性』はゼロじゃないな……」
あたしは真剣に推理をしてみた。
いったい、誰が犯人なのか。
……頑張って頭を回して……
……そして、そうそうに諦めた。
98番ほどじゃないが、あたしも頭は悪いのだ。
「んー……あたし個人で処理できる問題じゃないな。とりあえず、ウルベ卿に伝えるか……ああ、面倒くさいことになったな。まったく……」
「あ、アネゴ、俺はどうしたら……」
「……あんたは……『魔王組の外周本部』に、このことを伝えろ。……このレベルの大事件となると、確実に、貴族を含めた緊急会議が開かれるだろう。へたしたら、ラストローズ辺境伯も絡んでくるかも。めんどくさ……絶対に、あたしが取次役だよ……貴族からも、魔王組からも、便利に使われて……ほんと、めんどくさい」
「アネゴは、超優秀な女傑ですからね! みんなから信頼されているんですよ! もちろん、俺も信頼しています! 一生ついていきますからね、アネゴ!!」
「信頼ねぇ……それも、『便利』な言葉だよ、まったく……」
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名前『針土竜の3番』
メインクラス『探索者』
サブクラス 『拷問官』
『テンプルストライカー』
・称号『奴隷』
《レベル》 【65】
[HP] 【2800】
[MP] 【600】
「攻撃力」 【82】
「魔法攻撃力」 【36】
「防御力」 【75】
「魔法防御力」 【18】
「敏捷性」 【52】
「耐性値」 【30】
「魔力回復力」 【11】
「反応速度」 【88】
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