15話 ヤクザは、どの世界の、どの時代にもいる。
15話 ヤクザは、どの世界の、どの時代にもいる。
「どうした、17番。バカみたいに儲けたんだから、100万ぐらいポンと出せるだろ? ……いやぁ、しかし、ほんとよかったな、17番。苦労してきたお前が、幸運にも、ガっと大金を稼げた。友達として、嬉しいぜ。お前の幸せが俺の幸せ。その逆もまたしかり。さあ……さっさと出せ。それとも、魔王組に逆らうか? そこまでバカじゃないよな?」
最後の最後で、51番の目つきがギラっと変わった。
捕食者の目。
「……」
「おいおい、17番……まさかと思うが……まさか、マジで、魔王組に逆らうつもりじゃねぇよな? まさか、まさか、あのチンケなゴブリンの麻痺攻撃一つで、魔王組の構成員全員を倒そうとか夢みているわけじゃないよな? そいつは、さすがに無理だぜ、親友。確かに、『虎の30番』は強かったさ。あの強者を倒したことで、お前の気が大きくなっているのは分かる。今のお前なら、俺一人ぐらいは、どうにか倒せるだろう。今後も、お前は、あのゴブリンの力を使って、大会で、それなりに活躍できるだろうぜ。けど、それは、ルールがある闘技場での話だ。ルール無用の極道の世界で……お前のゴブリンなんざ、なんの役にも立たないぞ。魔王組の構成員の中には、虎の30番よりも強い奴がゴロゴロいる。そいつら全員で囲めば……お前なんかイチコロだ。そのぐらい……わかるよな?」
「もちろん、わかっていますよ。でも、100万は……流石に……」
そこで、『鴉の51番』は、チラっと、『蛇の9番』に視線を向けて、
「そこのガキも500万儲けていたな。そいつの500万と、お前の500万……賞金の100万も合わせて、全部で1100万も儲けたんだろ? その内のたかが100万だ。それで、お前は強固な友情を買えるんだぜ? こんなに安い買い物がほかにあるか? いや、ないね」
「……一つ約束してくれません?」
「約束?」
「100万払うんで……ボクと……こいつには、今後、手を出さないでほしいんです。ボクら、二人とも平民を目指していて……お金が必要なんです。だから――」
「よーし、わかった。取引成立だ」
ニッコリと微笑んで、一度、両手をパンと合わせてから、
「……だから、ほら、だせ、100万」
そこで、ボクは、仕方なく、
さきほど、ラストローズ辺境伯からもらった『100万入りの封筒』を、
51番に渡した。
ガバっと荒く受け取った51番は、
指をナメつつ、札を数えていく。
「よしよし……100万キッチリ」
数え終えると、51番は、
ニタリと、真っ黒な笑みを浮かべて、
「じゃあ、お前も、そこのガキも……明日、事務所に200万ずつ持ってこい」
「……そ、それは、約束が違います」
「約束はもちろん守るさ。お前らがもう200万ずつ出したらな。それだけの誠意を見せてもらったら、もう二度と、お前らには手出ししない。それどころか、正式にケツモチになってやるよ。良い取引だろ。じゃあ、明日事務所でな。知ってるよな、場所。昔、一回、引きずり込んだことがあるもんな。ははは」
などと高笑いしながら、51番は、どこかに去っていった。
その背中をニラみながら、
9番が、ボクに、
「払ったら、本当に、二度と手出ししないでくれるんでしょうか」
「なワケないだろ。全部しぼりとるまで終わらないさ。そういうもんだ。ゆすりたかりっていうのは。今までのボクはクソ貧乏だったから、51番も、手加減っていうか……手心を加えてくれていたけど、『金のある獲物』が相手なら、容赦はしないだろう。骨の髄までしゃぶってくる。そういうものだ。金のないチンピラっていうのは」
「じゃあ、どうするんですか?」
「ん? そりゃ、決まっているだろ。もう、ボクは、黙って搾取されるだけの奴隷じゃない」
「や……やるんですね。先輩の……本当の力で」
「本当の力ってわけじゃないけど……ボクらの将来を邪魔するバカには、相応の報いを受けさせる。それだけの話だよ」
「僕と先輩の将来……」
パァっと、幸せそうな顔で両手両足をパタパタさせる9番。
なんで、お前は、そんなに可愛いんだ。
ナメるなよ。
……本当に、こいつが近くにいると調子が狂う。
勘弁してくれ、まったく。
「変な意味でとるなよ。弱い奴同士、力を合わせて生きた方が合理的ってだけだからな」
★
魔王組の事務所は、歓楽街のど真ん中にある。
このエリアだけではなく、他の区域・エリアでも、魔王組は、
堂々と、歓楽街のど真ん中に事務所を構えて、
悪びれることなく、猛々(たけだけ)しく、
精力的に反社会的活動に勤しんでいる。
聞いた話によると、彼らは『暴対法が出来る前の日本ヤクザ』みたいに、
『必要悪』として、正式に『活動』と『存在』が認められているらしい。
表向きは、都市権力にアダなす存在でありながら、裏では、キッチリと、執行部に、ワイロという名の税金を納めているとのこと。
だから、『最低限の悪事』は見過ごされるようになっている。
『平民を殺しまくる』とか『貴族に手を出す』とか、そういう、『無茶』をしない限り、たいていの悪事は軽い御咎めで見逃される傾向にある。
『奴隷をイジメる』……というぐらいなら、
よほど残虐なことを定期的にやらない限り、
『あまり無茶するなよ』とたしなめられる程度で終わる。
だから、執行部に頼ることはできない。
――『困ったら警察に頼りなさい』は、この世界じゃ通じない。
この世界では、まじめに生きていると搾取されるだけ。
『自分』と『自分の大事なモノ』を守ってくれるのは……自分だけだ。




