14話 金は人を狂わせる。
14話 金は人を狂わせる。
「よくやったな、まさか優勝できるとは思っていなかったぞ。ほら、50万」
闘技場の武器管理官であるペギさんは、
そう言いながら、50万をボクに渡してきた。
「あの……ペギさん。もう50万は?」
「ん?」
「いやいや……『ん?』じゃなくて。これは、預けたお金でしょ。……預けた50万と、ボクが優勝したら払ってもらう予定の50万。あわせて100万のはずでしょ」
「……な、何の話だ?」
顔をそむけながら、
軽く顔に汗を浮かばせつつ、
ペギさんは、シレっと、とぼけてみせた。
「……」
「な、なんだ? なにか文句でもあるのか、奴隷! 俺は平民だぞ!」
……金がかかると、人の心ってのは大きく変わるもの。
普段は比較的親切で、差別意識少なめのペギさんも、金がかかるとこのありさま。
……まあいいさ。
別に、どうしても、この人からむしり取りたいわけじゃないし。
「……わかりましたよ。何もなかったことにしましょう」
1150万が1100万になるだけだ。
今回だけは、大目にみよう。
普通にちょっとムカつくけどね。
ボクが引くと、ペギさんは、ホっとしたような笑顔になり、
「い、いやぁ、しかし……よく勝ったな、お前」
「30番が、バカをかましてくれましたからね。まともにやっていたら負けていたと思いますよ。危なかったです」
「まあ、それはそうだが、しかし勝ちは勝ちだ。よく頑張ったな」
「……そう言ってもらえてうれしいですよ。ありがとうございます」
そのまま、ボクは、ペギさんのもとをあとにした。
闘技場の外に出ると、
待っていた『蛇の9番』が、とてとてと、ボクに駆け寄ってきて、ガシっと抱き着いてきた。
こいつの抱きつき癖……治してほしいな。
やばい気持ちになっちゃうんだよ……
「さすが、先輩! 余裕の勝利でしたね!」
「余裕じゃねぇよ。いろいろと、コスく、試行錯誤して……どうにかこうにか、かすめとったんだ」
「僕も先輩も、これで、大金持ちですね!」
「大金持ちってほどでもねぇよ。……1000万じゃ、まだ身分も家も買えない。二人そろって平民に上がるためには、3000万ぐらいは必要だ。というわけで、もうしばらくは、ポルのところで奴隷生活しないと」
「僕は奴隷のままでもいいですよ。先輩だけ平民に上がってください。僕はずっと先輩の奴隷として働きます」
「お前は正式に、執行部から、ポルのもとに派遣されている奴隷だ。ポルの奴隷を、ボクの奴隷にするのは、色々と骨が折れる。正直、手順が複雑でよくわからんし、最終的にはポルの委任状とかも必要になるし、書類とかを全部をそろえても、執行部が『否』って判定したら無理だし。ようするに、確実性がない」
奴隷から平民に上がる方法は存在するが、簡単ではない。
他人から奴隷を奪うのも……不可能ではないけど、それなりに手間暇がかかる。
「……もろもろを考えたら、お前を平民にする方がはやい。まあ、とはいえ、平民になるのも、だいぶダルいんだけどな……金と、家と、仕事と……あと、試験も受けないといけない。……まあ、試験とかは、なんとでもなると思うけど、問題は仕事だなぁ……確か、継続的に年収100万以上を稼げる仕事につかないといけないんだよなぁ……年収100万って、案外きついよなぁ……平民の中には、年収50万のやつとか、それ以下のやつもゴロゴロいるのに、なんで、奴隷が平民に上がろうとすると100万以上が必要になるんだよ……奴隷に対する嫌がらせがエグいな、この都市……」
などとブツブツ文句を言いつつ、
家路についていると、
そこで、
「よう、17番……大会、見てたぜ。すげぇじゃねぇか。相手がクソみたいに油断してくれたおかげだが……勝ちは勝ちだ。いやぁ、すげぇ、すげぇ」
チンピラ感がハンパない『25歳ぐらいのヤンキー』が話しかけてきた。
こいつは『鴉の51番』。
魔王組の構成員だ。
頭は悪いが、腕力はそこそこあるし、『自分より立場が弱い者をイジメる能力』と『自分より立場が上の人間にシッポをふる能力』が高い。
ようするに、クソチンピラである。
ボクは、これまでの人生で、こいつから、5回ほどカツアゲをされている。
5回カツアゲされたといっても、ボクは、クソ貧乏奴隷だったから、これまでに盗られた額は、全部あわせても『1万』あるかないかぐらいだけどね。
魔王組の構成員は、定期的に、組へ上納金を払わないといけない……が、
こいつみたいなバカは、まともな『シノギ(金稼ぎ)』ができないので、
ボクみたいな雑魚奴隷から金を巻き上げるという、
プライドもへったくれもない小さな悪事で、どうにかしのいでいる。
「いやぁ、ほんと、最高。『友達』のお前が、こんなに大金を稼いでくれるとはなぁ……いやぁ、助かった、助かった。今月分の上納金が、かなり足りなかったんだが……これで、どうにかなるぜ。今月分だけじゃなく、数年は安泰だ。いやぁ、よかった、よかった」
そう言いながら、ボクの背中を、無駄に強い力で、バンバンと叩いてくる。
「とりあえず、100万ほど貸してくれ。いやぁ、助かった、助かった」
「……いや……えっと……」
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名前『鴉の51番』
メインクラス『用心棒』
サブクラス 『喧嘩士』
・称号『奴隷』
《レベル》 【19】
[HP] 【383】
[MP] 【12】
「攻撃力」 【19】
「魔法攻撃力」 【3】
「防御力」 【12】
「魔法防御力」 【2】
「敏捷性」 【11】
「耐性値」 【18】
「魔力回復力」 【2】
「反応速度」 【9】
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