12話 疑念。
12話 疑念。
「まずは、改めて、優勝おめでとう。正直な話、君が勝つとは、夢にも思っていなかったよ。今回の出場者の中では、『虎の30番』が頭一つ抜けていたから」
ラストローズ辺境伯に褒められたボクは、えへへと、愛想笑いを浮かべつつ、
「あ、ボクも、そう思っておりました。ご覧いただいた通り……30番が、めちゃくちゃ油断してくれたので、助かりました。まともにやっていたら勝てませんでしたね」
「君のゴブリン2号は、なかなか優秀だな。かなり強烈な麻痺攻撃が使えるようだ。一度、受けてみたいな。やってみてくれないか」
「え、いや……辺境伯……さすがに、それは……辺境伯ほどの大貴族に、奴隷のボクが攻撃するってのは、あまりにも、あまりにもな感じで、ゆえに、しかして、いささか――」
「私がやってくれと命令しているのだ。それとも、辺境伯である私の命令に逆らうのかね」
「ま、まいりましたね、え、えへへへっ」
と、ボクは、一度、苦笑いの顔を浮かべて、
「じゃ、じゃあ……えっと、すいません。ご命令に従いまして、やらせていただきやす。怒らないでくださいね……お願いしますから……」
そう言いながら、ボクはマパネットを召喚して攻撃させる。
マパネットは、ボクに対して、めちゃくちゃ忠誠心があるというわけではないけれど、
でも、キッチリと、『ここでボクがやってほしいこと』を汲み取って、
ちょうどいい塩梅の麻痺攻撃を仕掛けてくれた。
マパネットの麻痺攻撃を受けたラストローズ辺境伯は、
「ほう……なるほど……」
ワインのテイスティングみたいに、じっくりコトコト『痺れ』を味わってから、
グっと腹の底に力をいれて、体の中から麻痺を弾き飛ばしてみせた。
「確かに、これほどの麻痺であれば……『虎の30番』でも、耐えられないだろうな……なかなかだ。……このレベルなら……たとえ貴族でも、『状態異常に対する耐性値が低い者』であれば、数秒は痺れさせることができるだろう」
「お、お褒めにあずかり光栄の至りでげす。へっへっへ。麻痺攻撃を使えるゴブリン2号を召喚できるようになったのは、本当に幸運でげした。えっへっへ」
と、ボクは、指紋がトロけるほど揉み手をしながら、全力の小物感を演出していく。
「17番、今大会とは別件なのだが……一つ確認したいことがある。いいかな」
「え、あ、はい……なんでしょうか」
「神殿経由で執行部から話があったのだが……君の飼い主は……魔王に暴行されたようだね」
「え……あぁ……はい、らしいです……ね、はい」
「歯切れが悪いな」
「いやぁ、その……『都市内部で魔王を見た』っていうと……その……『この巨大都市を結界で守ってくださっている女神様に対する不敬かな』って思いまして……ウルベ卿が、そんなようなコトを言っていましたし……」
「ふむ……なるほど。まあ、確かに、そういった見方もあるが……この場では、正直なことを聞かせてほしい。君は、都市内部で魔王が暴れているところを目撃したのか?」
「ああ……ぇえ……わか……りません」
「ほう。詳しく聞かせてくれ。何がわからない?」
「よく見えなかったんです。夜で、薄暗かったし……シルエットが人型だったのは覚えているんですが……『あれが魔王か』って言われたら……絶対にそうとは言えないというか……正直、ボク、最初は、ただの強盗だと思っていましたし。ほら、あの辺って、『魔王組』のゴロツキが、けっこういるところなので」
『魔王組』は、この巨大都市の中でトップの反社組織。
ようするに『ヤクザ』だ。
魔王組のほかにも、ほぼ同じぐらいの規模で、『龍王会』とか『鬼王一家』とかいろいろあるけど、勢力図的に、魔王組は……まあ、トップと言っていいと思う。
闇社会のこととか、そんなに詳しく知らないけどね。
……どの世界、どの時代でも、反社会的勢力というのは絶対に存在するもの。
悪のない社会は存在しない。
それが人間の本質と言えるかもしれない。
ちなみに、魔王組の名前の由来は、『魔王のように畏れられる組織になることを目的としているから』ということらしい。
そのネーミングセンスはよく分からないけれど、構成員の数も質も相当なもので、一般庶民は、魔王組に目をつけられないよう、毎日、ビクビクすごしている。
ボクは、この11年の中で、
5回ほど、『魔王組の構成員』からカツアゲや暴行をくらっている。
まあ、暴行といっても、ウルベ卿の時みたいに『腕を切られる』とかではなく、
腹を小突かれるとか、髪を引っ張られるとか、そんな低度だけどね。
……普通はそんなもんだよね。
腕を切るのは、流石に頭がおかしい。
ボクは、絶対に、いつかウルベ卿に復讐する。
殺しはしないけど、必ず、相応の地獄を見てもらう。
「君の飼い主は、『暴行されている途中で、魔王が、煙のように消えた』……と証言しているが、その点についても聞かせてくれないか?」
「あ、はい。消えましたね。それは見ました。なんか、フっと……消えました。あれ、よくわかんなかったですね。そういう魔法があるんですかね? ボクは無学で、ちょっとわからないんですが……」
「煙化、霧化、瞬間移動、不可視化……そういった魔法は存在するには存在する……が、どれであろうと、かなり高度な魔法であるため、使用者は限られるな」
「さすが、ラストローズ辺境伯……博識でげすなぁ、いやぁ、まだまだお若いのに、流石、流石。下賤なあっしなんかとは、すべてにおいて格が違いやすなぁ、えっへっへ」
ボクは、全力で、ラストローズ辺境伯をヨイショしていく。
これが、奴隷の処世術。
『立場が上の人間の前では、とにかく全力でへりくだれ!! 自尊心や矜持など1ユウガにもならん!』
「……なるほど……分かった。ありがとう。500万の払い戻し金に関しては、額が大きいので、直接渡すのではなく、あとで、君の口座に振り込んでおこう。ポルのもう一人の奴隷……確か、蛇の9番だったかな。彼も、500万勝っていたようだから……そっちも、同じように、彼の口座に振り込んでおく。君たちは奴隷だから、『執行部の供託所』を使っているはずだが……それで間違いないね?」
「あ、はい。そうです。ありがとうございます」
「一つ確認していいかな?」
「なんでしょう」
「君は、これまで、一度も、自分に賭けていないね。なのに、今回は、なぜ、自分に賭けようと思ったのかな?」
「えっと、今回が、15歳以下の部に出るのは初めてだったので……記念に……」
「10歳以下の部に初めて出る時も、5歳以下の部に初めて出るときも……君は自分に賭けていないね」
「あぁ……えぇ……」
なんだろう……これ……もしかして……
疑われている?
マジで?
なんで?
わからんけど……とりあえず、ごまかさないとな……
なんて言おうか、
えっと……そうねぇ……
えっと、えっと……じゃあ……
「9番の前で……カッコつけちゃったので……」
「? どういう意味かな?」
「いや、普通に、そういう意味で……えっと、その……あいつ、なんか、妙に美形でしょ? だから、近くにいると、なんか妙にドキドキすると言いますか……変な感情になるというか……ボクは、女性の方が好きですけど、そういうのとは別で……えっと……あ、なんか、わけわかんないですね……すいません……単純に……カッコつけただけです。麻痺攻撃が出来るゴブリンを召喚できるようにもなったし……スキをつければいけるんじゃないかって自信もあって……だから、『絶対に勝つから、賭けとけ』って言っちゃって……ボクも賭けるからって……それだけです。他の理由とかはないです……なんだか、ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。理解はできなかったが……説得力はあった。もういい。帰っていいよ。時間をとって悪かったね」
「い、いえいえ! それでは、失礼します」




