10話 ラストローズ辺境伯視点。
10話 ラストローズ辺境伯視点。
私の名はラストローズ。
辺境伯の地位についている貴族だ。
今回、この『小さな大会』を観戦することになったのにはワケがある。
「カルシーン伯爵……あなたはどこまで信じている? その……『魔王が都市内部に出現した』という訴えに関して」
私の後ろに立っているのは、カルシーン伯爵。
『外周西南西区』全体の支配を任せている伯爵位の貴族。
非常に優秀であり、心根も清らかな女性。
私は、彼女を強く信頼している。
けれど、流石に、今回の『訴え』は眉唾ものであると言わざるをえない。
「信じがたい……というのが正直なところです。けれど、『魔王の被害に遭ったと訴えている平民』の証言が……あまりにも真に迫っているので、単なる妄言と切り捨てることはできませんでした。それに……」
「それに?」
「その平民は……ぁの、その……きょ、局部を……切り取られてしまったらしく……」
「局部……」
「神官が治療しようとしたのですが……かなり強いバラモウイルスに感染しているようでして……再生できなかったようなのです」
「……ほう……」
「試しに、私も治療しようと試みました……しかし、私の回復魔法ですら、まったく歯が立たなかったのです」
「ハイプリエストであるあなたの魔法ですら……歯が立たない……とは……ふむ……それは、確かに、由々しき事態……」
バラモウイルスは、体中に広がっていくタイプの『対処が非常に難しい状態異常』だ。
どの『属性(毒・麻痺、回復阻害など)』を付与させるか『自由に決めることができる点』も極めて優秀な、状態異常の中でも、かなり質の高いものだが……扱える者が少ない。
そんなバラモウイルスを、『カルシーン伯爵でも処理できないほどの精度』で扱える者など……貴族の中にも、そうそういない。
『魔王』ならば……もちろん、使えるだろう。
魔王の魔力は別格。
「……それで、『彼』も……『魔王を見た』と証言しているんだね?」
私は、『今しがた、二回戦を突破した少年』に視線を送りながら、カルシーン伯爵にそう尋ねた。
「はい。彼は、『自称魔王被害者ポル』の奴隷――猿の17番。ポルの証言によれば、猿の17番は『ポルが魔王から暴行を受けている所』を、直接目撃しているとのこと」
「ふむ……ちなみに、カルシーン伯爵……あなたは、ここまでの、彼の戦いぶりをみて、どういう感想を抱いた?」
「感想……ですか。……ぇぇと……麻痺攻撃が出来るゴブリンというのは、なかなか優秀だと思いました。あの年齢で二体召喚できるというのも……まあ、そこまで優秀とは言えませんが、悪くはないかと」
「そんな、お手本みたいな感想は言わなくていいよ」
「はっ、申し訳ありません」
「……謝らなくていい。彼……というか、彼のゴブリンに、なにか、不自然なところはなかったかい?」
「不自然? 閣下は、あのゴブリンに、何か不自然さを感じたのですか?」
「軽い違和感程度でしかないのだが……なんというか……あの『麻痺攻撃が使えるゴブリン』からは……『あえて、徹底的に弱者のフリをしている』ような……そんな、『圧倒的強者の雰囲気』を感じなくもなかった……ただの勘違いかもしれないが……」
「……」
「カルシーン伯爵。あなたは、そう感じなかったか?」
「申し訳ありません……そのような、特別な感覚を抱くことはありませんでした……」
……自分で言うことではないが、私の戦闘センスはズバ抜けている。
『ほかの者では見えない揺らぎが、私にだけ見える』ということは、これまでの人生で何度も経験してきた。
だから、カルシーン伯爵が何も感じなかったからといって、私の疑念が拭われることはない。
とはいえ、今回ばかりは、そこまで自信があるわけではない。
本当に、あのゴブリンから特別な気配を感じたのか……それとも、単なる疑心暗鬼なのか……
自分でも微妙に判別がつかないのだ。
「カルシーン伯爵、謝らなくていいよ。私も、『絶対にそうだ』と言っているのではない。『そんな気がしなくもなかった』……という、とても曖昧なものだ。むしろ……『魔王が、この都市内部にもぐりこんでいる』という話を聞いてしまったものだから、『その情報』と『あのゴブリン』を『無理に結び付けてしまい、疑心暗鬼に陥ってしまった』という可能性の方が遥かに高い」
「は、はぁ……」
「カルシーン伯爵、あなたに聞きたい。例えば、こんな仮説はありえるだろうか。……『あの少年は、ある日、都市内部に魔王を呼び込むことができる力を手に入れた。その力を使い、自分を虐げてきた飼い主に復讐を果たした。そして、今、魔王をゴブリンの姿に擬態させ、金もうけをしようとしている』……こんな、妄想……仮説が真である可能性が少しでもあるだろうか」
「魔王を呼び込むことなど……できるのでしょうか」
「できないと思うけれどね。仮に、もし、万が一、この都市内部に呼び込むことができたとしても……強大な力を持つ魔王を従えることなど、あの少年の力で出来るとは思えない。あの少年は、おそろしく弱い。魔王を呼ぶことも、使役することも……到底、できるとは思えない」
「私もそう思います。大変恐縮で失礼ですが……先ほどの仮説は、流石に、あまりにも飛躍が過ぎるかと……」
「私も『自分の仮説が真だ』と強く思っているわけではないよ。安心してほしい。そこまで狂人ではないさ。それなりにまともな人間のつもりではいる。先ほどの推察は……『もし、魔王が本当に、都市内部に入り込んでいるとして』という、ありえない話を前提にした上でのムリヤリな仮説だ」
そう言いつつも、私は、あの少年に対する疑念を拭いきれずにいた。
あのゴブリンから感じた奇異な気配……
それを確かめようと、三回戦はじっくり観察しようとしたのだが、
三回戦の相手は、体調不良で不戦敗となってしまった。
その結果を見たカルシーン伯爵が、
「私も、閣下が感じられた『ゴブリンに対する違和感』を確認したかったのですが……残念です」
「まあ、でも、まだ決勝があるからね。そこで、しっかり観察させてもらうとしよう」
私の中の疑心暗鬼がさらに深くなっていく。
不戦敗……
引っかかる。
もし、魔王の力が使えるのであれば……
相手に毒を盛って不戦敗に追い込むぐらい容易いのではないだろうか……
疑心暗鬼がどんどん膨らんでいく。
ただ、同時に思う
仮に、万が一、私の妄想が真だとして……
なぜ、魔王は、あの少年に従う?
その理由があまりにもなさすぎるのだ。
仮に、私の妄想が真だとした場合……
『強大な力をもった魔王が、律儀に、あの少年に従い、【ゴブリン(魔王からすれば極めて下等な姿)】に変身した上で、【人間の奴隷(魔王からすればなんの価値もないゴミ)】を、お上品に、魔法で行動不能にさせている』
――ということになる。
ありえない話だ。
そんな屈辱を、魔王が受け入れるとは思えない。
魔王は、この私をも『一撃で葬り去ることができるほどの力』を持った化け物。
人間の命令など、絶対に聞くはずがない。
奴らは知性こそあるが、『理性』や『人間性』は皆無で、
『目の前の弱者を破壊すること』しか考えていない怪物。
……
……
……グルグルと、色々、悩んだが、
結局のところ、私は、
『決勝戦で真偽を確かめよう』という結論に至った。
まあ、たぶん、私の疑心暗鬼に過ぎないだろう。
流石に、あの少年が魔王を召喚・使役するなどありえない。
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名前『ラストローズ』
メインクラス『ハイパードラグーン』
『パラディン』
サブクラス 『マスターガーディアン』
『Lジェネラル』
・称号『貴族(辺境伯)』
《レベル》 【123】
[HP] 【16000】
[MP] 【6200】
「攻撃力」 【152】
「魔法攻撃力」 【133】
「防御力」 【82】
「魔法防御力」 【99】
「敏捷性」 【109】
「耐性値」 【110】
「魔力回復力」 【108】
「反応速度」 【128】
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