8話 チートゴブリン、召喚。
8話 チートゴブリン、召喚。
大会が始まる前は、どのランクであろうと、
だいたい、ちょっとしたセレモニーがある。
出場者が全員、『武舞台』の上にあがって、
『観戦にきている貴族』から、挨拶を賜る。
貴族の見学がなかった場合は、闘技場の支配人が挨拶をする。
今回の大会で挨拶をしたのは……
「本日はまたとない好天に恵まれ、こうして、みなと闘技大会を開催する事が出来大変嬉しく思う。この日の為に、みな、鍛練を積み重ねてきたことだろう。是非その鍛錬の成果を十分に発揮し、素晴らしい成績を残すことが出来るよう、心より応援している」
信じられないことに、
『ラストローズ辺境伯』だった。
武舞台に並ぶ出場者は、みな、3歳ぐらいの頃から、ずっと大会に出続けてきた猛者ばかりなので、いまさら、セレモニー程度では緊張などしない……のだが……さすがに、ラストローズ辺境伯の前だと、みな、顔がこわばっていた。
ラストローズ辺境伯は、『外周全域』を統括している大貴族。
カルシーン伯爵よりもさらに上の地位。
統治領域だけで言えば、カルシーン伯爵の8倍ぐらい上。
ウルベ卿の80倍の権力を持つ超大貴族。
こう聞くと、ウルベ卿がゴミに思えるけど、そうじゃない。
ラストローズ辺境伯がハンパないだけ。
ラストローズ辺境伯の年齢は15歳と、すさまじく若い。
あまりにも有能すぎるため、えげつない速度で階級を上げていった天才の中の天才。
いずれは、公爵……あるいは、大公の地位まで上り詰めるのではないか、とウワサされている、大貴族の中の大貴族の中の大貴族。
ゼラビロスと同等クラスの『えげつないイケメン』で、かつ、とんでもない天才という、
ボクが持っていないものを全部もっている超人。
ラストローズ辺境伯ほどの貴族が……なんで、こんな小さい大会を見に来てんだ?
花形の『無制限部門(平民も奴隷も関係なく、年齢すら不問で、真剣に誰が一番強いか決めるストレートな大会)』ならともかく……
『奴隷の15歳以下の部』なんて、出場している身であまり言いたくないけど、正直、『しょっぱい試合』しか行われないぞ……
ボクが困惑していると、ラストローズ辺境伯は、
挨拶を終えて、
『この闘技場全体を見渡すことができる3階の貴賓室』へと向かった。
マジで、なんで、あれほどの超貴族が、見に来ているのか知らないけど……
まあ、正直、どうでもいいっちゃ、どうでもいい。
誰が見ていようと、ボクがやることは変わらない。
この大会で優勝し……大金を稼ぐんだ。
★
そんなこんなで、大会が始まった。
今回の出場者は全部で11人。
形式はトーナメント。
虎の30番はシードで、2回勝てば優勝という好待遇。
ボクは4回勝たないと優勝できない。
初戦の相手は、『猿の20番』。
同い年の相手で、これまで、何度か戦ったことがある。
『5歳以下の部』の時は、勝ち越していたけど、
『10歳以下の部』に上がってからは一度も勝てていない。
こいつ、結構、強いんだよ。
武道家タイプでタフな野郎。
「17番……お前が相手で助かったよ。今日はどうしても賞金が欲しかったんだ。初戦で負けるとファイトマネーはゼロだからなぁ」
「初戦に勝つだけじゃあ、300ユウガぐらいしかもらえないけどな」
「ところで、17番……なんで、こんな小さな大会に、ラストローズ辺境伯が見に来ているのか、理由、知ってる?」
「ボクを見に来たんだよ。将来有望なこのボクをね」
「……今のジョークはかなり面白かったぞ、17番。つまらないお前の口から飛び出したとは思えないほどイカしたシャレだった。褒めてやるよ」
かるく言葉を交わしたところで、
審判がボクらの間に割って入り、
「気絶か、10カウントで敗北。なるべく相手を殺さないように。分かった?」
ボクと20番は互いにコクっと頷く。
それを見ると、審判は一度頷いてから、
「それでは、はじめ」
と、開始の合図を出した。
はじまるやいなや、20番は、一気に距離をつめてきた。
ボクは、反射的に、
「ゴブリン、召喚!!」
最大戦力を投下する。
ボクにできる、ほとんど唯一にして最大の攻撃手段。
それが、このゴブリン召喚だ。
『何も武器を装備していない素手のゴブリン』。
魔王と比べたら、カスみたいな性能だけれど、
身体能力はボクよりも余裕で強い。
「いけ、ゴブリン! 20番を殴り殺せ!! 会場に血の雨を降らせるんだ!」
『ゴブリンを召喚して、あとはお任せ』という、知性のカケラもない、極めてシンプルな戦法。
ゴブリンが負けたら終わり。
これが、ボクにできる唯一の闘い方。
「雑魚を召喚することしか出来ない無能が! 17番……お前、3歳の時から、何も変わらないな!」
ゴブリンを蹴り飛ばしてから、
ボクの方に殴り掛かってくる。
何度も戦っているので、20番は『ボクがゴブリンを召喚できること』を知っている。
そして、『ボクが気絶したらゴブリンも消えること』も分かっているのだ。
だから、とにかく、ボクを失神させようと、ゴブリンを無視して、全力で殴り掛かってきた。
……いつもは、ここで殴られて負けていた。
けど、今回のボクは一味違う。
「ゴブリン2号、召喚!!」
20番の『重たそうなパンチ』をギリギリのところで回避しつつ、
ボクは……『ゴブリンに擬態したマパネット』を召喚する。
ゴブリン1号は素手だけど、この『ゴブリン2号』は、右手に、こん棒を装備している。
「17番、てめぇ……いつの間に、2体目を召喚できるように――」
と、20番が驚いている間に、
『ゴブリン2号』は、
20番の脇腹に、
自慢の『こん棒』を叩き込む。
「ぐう!」
バキっと、肋骨の折れる音が聞こえた気がした。
が、20番は、すぐに体勢をたてなおして、
「く、くそ……『カスの17番』なんかに……負けて……たまるか……」
と、11歳とは思えない気合いの入りようで、
またボクに殴り掛かってこようとした……が、
そこで、
「うぐっ……」
20番は、一度フラついて、その場にバタリと倒れこむ。
「な、なんだ……体が……動かない……まさか……麻痺?」
「その通りだ、20番。ボクのゴブリン2号はなぁ……麻痺攻撃ができるんだよ。おそれいったか? ふはーははは」
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名前『ゴブリン』
メインクラス『ファイター』
サブクラス 『なし』
・称号『召喚獣』
《レベル》 【5】
[HP] 【152】
[MP] 【65】
「攻撃力」 【8】
「魔法攻撃力」 【7】
「防御力」 【9】
「魔法防御力」 【3】
「敏捷性」 【2】
「耐性値」 【6】
「魔力回復力」 【7】
「反応速度」 【8】
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