7話 絶対に勝てるギャンブル。
7話 絶対に勝てるギャンブル。
《雅暦1001年7月9日》
今日は納品の日なので、朝早くから、
剣や斧などの武器を150本ほど乗せた荷車を引いて、闘技場へと向かう。
闘技場の『武器管理官』……ペギさんとは、もう長い付き合いなので、
変に手間取ることもなく、サクっと仕事は終わった。
「ほら、代金の50万2599ユウガだ」
「ありがとうございます。失礼ですが、目の前で数えさせていただきますね」
そう言いながら、ボクは札を数えていく。
今回の仕事の代金は『50万』ちょっと。
だいたい、毎月、こんなもの。
オッサンの年収は、『600万』前後。
一人身の平民が奴隷二人を食わせていく分には十分な額。
平民の平均年収は200万前後なので、オッサンはだいぶ頑張っている方。
ちなみに、ボクも、闘技場の試合に出て稼ぐことはあるから、世帯年収で言えば、もっと多い。
とはいえ、ボクはクソ弱いから、そんなに稼げないけどね。
『5歳以下の奴隷の部』に出ていた時は、年に10万ぐらい賞金を稼いでいたけど、
年をとって階級が上がり『10歳以下の奴隷の部』に参加するようになって以降は、なかなか勝てず、『年収2万あるかないか』になっちゃった。
『5歳以下』の時は、まだ周りが『物心ついているかついていないかのガキ』ばっかりだから、
『人生2週目(実年齢17歳以上)』のアドバンテージをフルに活用して、
どうにか、こうにか、勝利をかすめとっていたけど、
『10歳以下の部』になると、同年代のガキどもも、知恵がついてくるし体も大きくなる。
そうなると、『スペック差』がモロになってきてねぇ……
……ボクのスペックは、謙遜じゃなく、ガチで、普通に低いんだ……
「17番、今日は出場するんだろ? 確か、今日から『15歳以下の部』に出るんだったよな。頑張れよ、応援しているからな」
ペギさんにそう言われたボクは、
ニコっと微笑み、
「じゃあ、ペギさん、ボクに賭けてくれる?」
「ははは。それとこれとは話が別だ。今回の『15歳以下の奴隷の部』には『虎の30番』が出るからな。お前が優勝できる可能性はゼロだ」
虎の30番は、『15歳以下の奴隷の部』では最強扱いされている戦士。
ボクも、何度か、30番が闘技場で闘っているところを見たことがあるけど、
マジで、ハンパなく強かった。
普通にやったら、ボクに勝ち目はない。
けど、ボクには無敵の切り札がある。
「17番よ……虎の30番は強いぞぉ。もし、30番とあたってしまったら、即座に降参した方がいい。無駄に死ぬ必要もない」
ペギさんは、ウチのオッサンと違い、
だいぶ真っ当な人なので、
普通に、ボクの心配をしてくれた。
「ありがとう。でも、なるべく頑張ってみるよ。お金ほしいからね」
「むりむり。死ぬだけだ。やめとけ。お前、弱いんだから。『10歳以下の部』の時だって、お前、ほとんど勝てなかっただろう。『15歳以下の部』からはレベルがグンと上がるんだ。ナメちゃいけない。10歳以下の部の時と違って、下手したら、本当に死ぬぞ」
「そんなに言われちゃぁ、ボクも引き下がれないね。どう、個人的に賭けをしない? 今日の大会で、ボクが優勝できたらペギさんがボクに50万払うってのはどう?」
「受けてやってもいいが、その条件だと、優勝できなかったとき、お前が50万払うんだぞ」
そこで、ボクは、ペギさんに、
さっき預かった代金の50万を渡し、
「優勝できなかったら、それを持っていっていいよ。その代わり、優勝できたら50万……その50万とあわせて100万を払って。これでどう?」
「……バカか、お前。ポルに殺されるぞ。勝手にこんなことして……」
「受けるの? 受けないの? どっち」
「俺は受けるに決まっているだろう。ただで50万手に入ったようなものなんだから」
「よし……じゃあ、よろしくね。ボクが勝てたら、ちゃんと100万払ってね」
「……バカだなぁ、お前」
★
出場者の『過去の大会成績』は、事前に全て発表される。
その情報をもとにして、みんな、誰に賭けるか決める感じ。
まあ、ようするに、日本での『競馬』とほぼ変わらない。
闘技場での戦いは『死んでも文句を言わない』というのが鉄則だけど、死ぬことは滅多にない。
必ず、神官が側に控えているから、相当な大ケガを負っても死ぬことはないんだ。
絶対に死なないってワケじゃないけどね。
年に数人は死んでいる。
「先輩の倍率、すごいですね……全然評価されてない……」
強い奴の倍率は低くなり、
弱い奴の倍率は高くなる。
ボクの倍率はすごかった。
誰にも期待されず、誰にも賭けてもらえなかったから、
最終オッズは10000倍近くまでいった。
闘技場特有の『弱者ボーナス』がかかっているとはいえ、これは酷い……
闘技場での戦いは、自分自身に賭けることも出来るから、ボクは自分に500ユウガをかけた。
9番にも、ボクに500ユウガをかけさせた。
それでも10000倍前後から変動がない……たぶん、ボクと9番以外、誰一人、ボクに賭けていない。
10000倍ともなれば、大穴狙いのギャンブラーが賭けてきそうなものだけど、
そんな連中からも『ボクに賭けるのは金をドブに棄てるだけ』と判定されたってわけだ。
……流石にちょっとヘコむけれど、でも、これでボクが優勝すれば、
ボクと9番、二人で『1000万』だ。
ちなみに、優勝候補の『虎の30番』は1,1倍。
100ユウガを賭けたら、110ユウガになって帰ってくる。
……やる意味ないとは言わないけど、賭けに勝っても、あまり面白くはなさそうだね。
「絶対に勝つと分かっているんですから、有り金、全部、突っ込んだ方がいいんじゃないですか? 僕、一応、執行部の供託所に貯金が5万ユウガほどあるので……」
「意味ないよ。どうせ、ボクら以外、ボクに賭けてないんだから。オッズが下がるだけだ」
……奴隷も一応、財産を持てる。
ボクら奴隷は、『飼い主の道具』なので、基本的には『ボクらがもっているものは主人のモノ』というジャイアニズムシステムになっているけれど、特定の手法で稼いだ金は、自分のものとして保有することができる。
この闘技場でのファイトマネーとか、賭けの配当とかがそれにあたる。
ちなみに、ボクも、執行部の供託所に、20万ほど預かってもらっている。普通の銀行と違って利子はつかないけれど、確実に財産を守ってくれるから、ありがたい存在だ。
11歳で20万の貯金といえば、日本視点だと多いように思えるだろうけど、
ボクは、3歳のころから、正式に働きだし、ほぼ休みなく、朝から晩まで働いていて……それで、貯金20万だからね。
控えめに言って、号泣だよね。
『奴隷としての基本労働が無給』ってのが……普通にキツいんだよなぁ……
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名前『ペギ』
メインクラス『剣闘士』
サブクラス 『傭兵』
・称号『平民』
《レベル》 【28】
[HP] 【820】
[MP] 【5】
「攻撃力」 【25】
「魔法攻撃力」 【2】
「防御力」 【30】
「魔法防御力」 【3】
「敏捷性」 【10】
「耐性値」 【12】
「魔力回復力」 【1】
「反応速度」 【12】
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