55話 殴り合っていると……どんどん湧いて出てくる。不思議なもんだ……理解できない……ずっと、私は、『私の中に残っているもの』の重さが理解できない。
55話 殴り合っていると……どんどん湧いて出てくる。不思議なもんだ……理解できない……ずっと、私は、『私の中に残っているもの』の重さが理解できない。
『黙れ、小僧』と、瀟洒なファントムで返していくセン。別に、トリデはファントムトークを使ったわけではないし、センも、その辺の機微は分かっているのだが、しかし、そんなことは関係ない。いけそうなタイミングを見つけたら、空気を読まずにぶちかますのがファントムトーカーの流儀。
ちなみに、今の『黙れ小僧』という、だいぶモノノケな返答、
一見、茶化しているようにしか思えないが、
センエースなりに、本気の返答だったりする。
「センエース……私は、お前の『想い』を理解したい」
ちなみに、センも、トリデのゲンコツを顔面に何度も受け止めているので、
だいぶグチャグチャになっている。
グチャグチャ度合で言うと、
トリデが90なのに対して、センは50ぐらいと言った感じ。
センは、ゴキゴキっと首を鳴らしてから、
「メンヘラはそうとうなもんだが、パンチには重さが足りないようだな」
と、本気のファントムで煽っていく。
核心をつこうと必死なトリデと、
それを、ユラユラと柳のようにかわしていくセンエース。
そんな、オンボロな時間を積み重ねてきた。
殴って、殴られて、
無意味なようで意味しかない言葉を交わし合って、
スカしあって、ゆずりあって、頑なさをむき出しにして、
そうやって出来上がった、ズタボロの砂の山を眺めながら、
センは何度も溜息をついている。
トリデの『イカついメンヘラ』との向き合い方に悩んでいるみたい。
トリデは、ずっと、輝木に執着している。
より正確に言えば、『輝木の中のフラグメント』に執着している。
――輝木は、薬宮シリーズのフラグメントを持っている。
つまり、トリデが執着しているのは薬宮トコという女。
それ以外はどうでもいいという気迫すら感じる。
だが、同時に、なんの感情も抱いていないような……心を失っているような、そんな感覚も覚える。
「トリデ……そろそろ抵抗をやめていいぞ。お前と殴り合うのも、いい加減、ウンザリしてきた。普通に次の一手で死んでくれ」
「いや……もう少し頑張ってみる。私の中に……まだ、言いたいことが残っていた。殴り合っていると……どんどん湧いて出てくる。不思議なもんだ……理解できない……ずっと、私は、『私の中に残っているもの』の重さが理解できない……」
また暴力をかわしあう。
ズシンと、深く、重く。
だんだん、トリデの拳の質量が増しているような気がした。
センはむせかえる。
扁桃炎みたいな観念だけで一杯になっていく。
約束神化と、殺戮神化。
その二つの意味が分かった気になる。
あくまでも、そんな気がしただけ。
実際のところは、何もわかっちゃいない。
「トリデ、もういいって。終わろう。なんだか、とっても眠いんだ!」
「センエース……お前は、輝木をどう思っている?」
「しつけぇ……お前、なんだかんだ、ずっと、それしか言ってねぇな……いい加減、マジで、ウザいんだよぉおお!!」
ゴールデンウイークイベントの新作『さいごのまおうのせかい』ですが、
『5月1日の午後17:30』ぐらいから、
なろう、カクヨム両方で、投稿を開始しようと思っております。
あくまでも予定ですが、そのつもりで動いております。
だいぶ面白く仕上がったので、
もし、よろしければ読んでいただければと思っております!




