43話 『センエースの今の肉体』は、反復練習がまったく足りていないので、『事態を好転させる起死回生の美しい一撃』……とはならなかった。
43話 『センエースの今の肉体』は、反復練習がまったく足りていないので、『事態を好転させる起死回生の美しい一撃』……とはならなかった。
「合気……一閃……」
なるべく『肉体のパワー』を必要としない技を厳選して放ったセン。
筋力も敏捷性も足りない現状だと、どんな技であれ、だいぶしょっぱい威力になるのは間違いない。しかし、この合気一閃は、『麻痺や筋弛緩毒などで力が出せない時用』に開発したテクニカル重視の一閃。
『センエースの今の肉体』は、反復練習がまったく足りていないので、
『事態を好転させる起死回生の美しい一撃』……とはならなかったが、
しかし、膨大な時間をかけて積み重ねた、技に対する知識と、
類まれな、極限状態時の集中力を組み合わせることで、
「っっっ!! ぬぉおおっ!!!」
ウムルの右腕を切り飛ばすことに成功した。
ウムルは、切られた腕を見つめながら、
「まさか……バカな……この私の腕が……あんな、なんの力も持っていないガキに……ありえない……」
放心した顔で、そうつぶやく。
輝木の顔面を掴んでいた右腕が、センに切られたことで、腕力を失った。
輝木は、すぐさま自分の顔面に残っているウムルの右腕をはぎとると、テキトーに投げ捨て、
センに、
「はぁ……はぁ……あ、ありがとうございますぅ」
と、そう言いながら、
センの盾が出来る位置を陣取る。
その行動を見てイラっとしたセンが、
輝木の前に出ながら、
「輝木……変身できないお前に用はねぇ。とりま、武器だけおいて、ここから消えろ。あとは俺がやる」
「ありえないですねぇ」
「ありえるんだよ。てめぇの顔はキモいから、見ているだけでゲロが出そうだ。顔を直視していなくとも、近くにいられるだけで脳が溶けそう。俺は、殺人鬼みたいな目をした女が、死ぬほど嫌いでな。というわけで、とっとと失せろ。さもなくば、ウムルよりも先に、俺がお前を殺すぞ」
「かまいませんよぉ」
「……はぁ?」
「あなたを守ることの方が、あなたに殺されることよりも優先順位が上ですのでぇ」
「……めちゃくちゃサイコなこと言ってる……ヤバすぎ……」
センがドン引きしていると、
そこで、ウムルが、
「ワケのわからん力を持った、気色の悪いクソガキめ……確実に駆除してやる……っ」
忌々しそうに、そう言ってから、センの背後に、秒速でまわり、
「死ね、ガキぃいい!!」
そう叫びながら、
『口が裂けている有名な妖怪』のように、
でっかく口を開けて、
ガブゥっとセンの頭を食いちぎろうとしてきた。
ギリギリのところで、
輝木が飛んできて、豪快にセンを庇っていく。
『高速道路での人身事故』みたいな勢いで、センと輝木両方が吹っ飛ぶ。
その勢いが凄すぎて、センの自室の壁は普通に破壊され、
二人とも、外に放り出された。
ウムルの食いちぎりからは逃れられたが、
輝木の突進というえげつない衝撃を受けて、
普通に腹から下がグシャグシャに崩壊しているセン。
「ごめんなさぁい……すぐに治しますからぁ」




