39話 え、全部、夢? いや、まあ、『あんな状況、夢でしかありえないだろ』って言われたら、確かに、ぐうの音も出ないんだけど……
39話 え、全部、夢? いや、まあ、『あんな状況、夢でしかありえないだろ』って言われたら、確かに、ぐうの音も出ないんだけど……
(メモリ増築は完璧……これで、蝉原の記憶だけやなく、ワシとセンエースの記憶も、過去へと引き継がれる! 次のターンで蝉原を処理できんかったら終わり! さあ、あとは任せたぞ、過去のワシとセンエース!! 確実に蝉原を殺してく――あっ、やばっ、メモリの増築に夢中になりすぎて、まだ、センにタイムリープの説明をしてな――)
どんな天才でも、盛大な『ポン』をぶちかましてしまうことはある。
天才だから完璧なわけじゃない。
アインシュタインは超浮気性で自分の家の電話番号を知らなかった。
それが人間。
どこまでいっても、悲しい生物――
★
「――――――――――――――――――――――――――ん……んん……」
目を覚ましたセンは、
ムクリと、上半身を起こして、
周囲を見渡す。
――そこは、見慣れた光景。
起き慣れた、自分の部屋、自分のベッド。
窓の外に広がる風景は、これまた見慣れた、『日本』の住宅街。
(……えぇ……なに? なんで? 今、俺……『終わった世界で、トウシと合体して、蝉原と殺し合っていた』はず……え、全部、夢? いや、まあ、『あんな状況、夢でしかありえないだろ』って言われたら、確かに、ぐうの音も出ないんだけど……)
心の中でぶつぶつ言いながら、
頭をぽりぽりとかきつつ、
ベッドからおりて、
軽く体操をしながら、
(え、マジで全部夢? 夢なのかなぁ……んー)
そこで、センは、スマホの日付を確認してみた。
すると、
(……一週間前……時間が戻っている……ショデソウのデスゲームに巻き込まれる前……マジかよ……なんでだ? ……本当に、あれは、全部夢だったのか?)
と、悩んでいると、
……バチバチっと、空間に電気が走った。
ドヨっと、一瞬で空気がよどみ、
目の前に『次元の亀裂』が出来上がる。
(おいおいおい……)
あまりにも脈絡がない、急な出来事の連続に、センがドン引きしていると、
次元の亀裂の向こうから、
「……」
――声もなく現れたのは、
『金のヴェールを纏ったような男』の異形。
その見覚えのある怪物を見たセンは、
「こ……こんにちは……」
と、軽くおののきながら、そう言いつつ、
(やっぱ夢じゃねぇ。それとも、予知夢だったのか?)
そう言いながら、腹の底に気合を入れてみるものの、
(……オーラも魔力も出せない……毘沙門天も使えねぇ。……力を手に入れる前まで、時間が戻っているから……か?)
今の自分に『力』がまったくないことを確認していく。
現状、何が何だかサッパリ分からないが、
『目の前にウムルDがいる』というのと、
『デスゲームが始まる前まで時間が戻っているので、まったく力が使えなくなっている』という二点は把握した。
おののいているセンの視線の先で、
『金のヴェールを纏った異形』は、
きょろきょろとあたりをうかがいながら、
「……ん? おかしいな。聞いていたタイミングと全く違うが……」




