25話 トリデ……テメェの敗因はたった一つだぜ。たった一つのシンプルな答えだ。てめぇは、『痛さ』で、俺に勝とうとした。それだけは、絶対に許されない愚行だ。
25話 トリデ……テメェの敗因はたった一つだぜ。たった一つのシンプルな答えだ。てめぇは、『痛さ』で、俺に勝とうとした。それだけは、絶対に許されない愚行だ。
「俺の、生物として極めてまっとうな怒りを……思い知れ……」
自分の中で沸き上がる全部を、もれなくすくいあげると、センは、ガっと力強く、両目をガン開いて、
「――殺戮運命神化 破道混沌/黒蛇邪気眼――」
轟々と燃えるような邪気を放つ。暴走する憤怒と苦悩と悲哀を糧にして輝く黒い閃光。
砦才悟という、異次元の狂気と向き合うために、
自分の中にある『力になりそうなもの』を根こそぎかき集めた結果。
『邪気』の力強さは、精神系の中でも少々異端。
精神汚染関連のデメリットがハンパないという現実から目を背ければ、
圧倒的かつ簡単に『強い力』を得られる、諸刃すぎる剣。
「俺は……不愉快な運命を抹殺するために輝く、聖なる死神の堕天使。邪気眼の帝王、舞い散る閃光センエース。お前を殺す者だ」
トリデサイゴにならって、名乗りをあげるセンエース。
気恥ずかしさを力に替える覚悟が煌めく。
堂々と名乗りをあげたセンに、
砦は、いつも通りの冷めた顔で、
「私が言うのもなんだが……凄まじい厨二病ぶりだな」
と、煽っていく。
普段のセンなら、ここで、照れ隠しのファントムを一つまみたしなむところだが、
しかし、憤怒で丁寧にバキバキ暴走しているセンは、
血走った目で砦をにらみつけたまま、
「トリデ……テメェの敗因はたった一つだぜ。たった一つのシンプルな答えだ。てめぇは、『痛さ』で、俺に勝とうとした。それだけは、絶対に許されない愚行だ。誰も俺には勝てねぇ。勝っちゃいけねぇ。俺が……俺だけが、この星の一等賞だぁああああ!!」
暴走する邪気眼。
テレもクソもない精神の爆走で、
砦の首をかるためだけに疾走する閃光。
「どらぁああああああああああああああああああ!!」
怒声を力に替えようと必死。
全てのエネルギーを総動員させて、
砦を処理しようと必死のセン。
全ての命が死滅した世界の片隅で、
二人の厨二病患者が殺し合う。
不文律の絵画を切り取ったような、
幽遠とリンクする一瞬の風が、
グラリと、揺れ動きながら、互いの命を飾り立てる。
ツラツラと、ある意味で盲目的に、過剰なほど詩的に、
互いの武が重なり合っては遠ざかっていく。
心が触れ合ったような錯覚の中で、
多くの対話を交わした気になった。
……錯覚の中の気のせい。
どうしようもないほど空虚で寒々しい。
なのに、なぜかな……どうしても、そこに、
確かなシルエットを感じてしまう。
「砦ぇええええ!! お前の強さ、なんか、腹立つぅうううう! なんでだぁああああああ?! なんで、俺は、お前に、こんなにも腹が立つ?!」
「お前の感情を、私に聞くな」
かわし合った言葉に意味があるようには思えなかった。
けれど、互いに彩る。
言葉の奥にある感情だけで、下手な自画像を仕上げていく。
気付けば、アクリルガッシュで整えたみたいに、
フラットで、ムラのない一枚が出来上がっていく。




