5話 アレスの持ち主の『田中・イス・咲紅爛(さくら)』は? できれば、それも食らいたいんだが?
5話 アレスの持ち主の『田中・イス・咲紅爛』は? できれば、それも食らいたいんだが?
輝木の頼みを聞いてくれそうな様子は一切ない砦。黙ったまま、貫くような目で、ジっと輝木を見つめている。
その目の意味が正しく理解できない輝木は、砦の視線の意味を、いったん、『嘲笑』だと認識し、
「いくら私が弱いからってぇ……そんなに小ばかにしなくてもいいじゃないですかぁ」
と、軽く文句を口にしてから、
周囲に『大量の毒ナイフ』を召喚し、
問答無用の速攻で、全てのナイフを、目の前の砦本体にブッ刺していく。
ハリネズミになった砦は、
自分の体を蝕んでいく毒をじっくりと味わってから、
「薬宮トコの毒か……」
と、感慨深そうに、一度、そう言ってから、
軽く手を振るだけで、
全身に刺さっている全てのナイフを消滅させると、
一瞬で、輝木の背後に回り、
「……」
ほんの一瞬だけ躊躇してから、
音速の首トンを決めていく。
何も分からないまま気絶してしまった輝木を、
優しく抱き留める砦。
……またもや、一瞬だけ躊躇してから、
丁寧に、頭から丸のみしていく。
女性陣の全てを奪い取った砦は、
目を閉じて、どこかに、通信魔法をつなげ、
「……アレスはどこだ? アレスも回収しないと、パーフェクト・ルナになれない」
と、『誰か(蝉原)』と会話をしている。
その間も、センは、ずっと、ブチギレながら、拘束魔法に対抗しようとしているが、
数百万人の砦という暴力を前に、なすすべがない様子。
必死に暴れているセンを尻目に、
砦は、『認知の領域外にいる蝉原』に、
「……お前のことだから、どうせ、回収しているんだろう? …………やはりな。……ああ。すぐに転送してくれ。ちなみに、アレスの持ち主の『田中・イス・咲紅爛』は? できれば、それも食らいたいんだが………………そうか、咲紅爛は、無理か。いや、いい。わかった。アレスだけで」
そう言って通信を切った直後のこと、
砦の目の前に、『携帯ドラゴン・アレスの死体』が出現した。
死んでいるアレスを見つめながら、
「強制的に摘出しただけのフラグメントだから鮮度が悪いな……まあ、どうせ、合体パーツとして使うだけだから、別にいいが……」
そう言いながら、ごくんと、丸のみしてしまう砦。
必要なパーツを全て手に入れた砦の中で、
ルナが、大きな覚醒を果たす。
「顕現せよ……パーフェクト・ルナ・センエース」
「きゅいぃいいいいいいっ!」
砦の前に現れたのは、
神々しい輝きを放つ一匹の携帯ドラゴン。
とんでもない質量を誇る、その携帯ドラゴンに、
砦は、
「――パーフェクト・トランスフォーム――」
完全変身の命令を下していく。
美しく、しなやかに、凛と、
艶やかに、きめ細やかに、
――ルナは、砦を包み込んでいく。
こうして完成した龍の化身。
雄々しく、猛々しく、
なのに、驚くほど繊細な輝き。
「私は、運命を殺す狂気の具現。永き時空を旅した敗北者。月光の龍神トリデサイゴ」
堂々と名乗りを上げる砦。




