1話 彼の命は普通に有限だ。それを、彼は理解していた。それでも、彼は、タナカレイナを救って死ぬことを選んだ。
1話 彼の命は普通に有限だ。それを、彼は理解していた。それでも、彼は、タナカレイナを救って死ぬことを選んだ。
宇宙服を着ないでシャトルの外に出てしまったアストロノートみたいに、グシャリと、強い圧力で、センの全身がしっかりと潰された。物言わぬ肉塊。普通にセンは死んでしまった。明快に、生命としての死を迎えてしまったセンエース。
――センエースの『見間違えることのない死』を目の当りにした星桜は、
「え……なに、これ……」
ただただ、呆然と、静かな夜の学校で、
眉間にシワをよせていく。
「え、ほんまに死んだワケとちゃうよな?」
と、思わず、星桜は、
後ろにいる輝木、ウルア、久剣に対して、素に近い状態で声をかけてしまう。
普段は、気にもとめていない小娘どもに、つい、普通に声をかけてしまうほどの動揺。
そんな星桜に、輝木が、
「……ソウルゲートを使った時と同じで……死んだふりをしているんだと思いますよぉ。センイチバンは死にませんからねぇ」
あくまでも、センエースの死に対して盲目的な輝木。
……と、そこで、
センの『圧殺死体』の側に転がっていた蝉原デスガンが、
フヨフヨと浮遊しながら、
「残念だけれど、あの時とは違うよ。センくんは死んだ」
「……そんなわけありませぇん。センイチバンは死にませんからぁ」
「死ぬよ。彼の命は普通に有限だ。それを、彼は理解していた。それでも、彼は、タナカレイナを救って死ぬことを選んだ。『ついさっき初めて会ったばかりの生意気なメスガキ』のためにそこまで出来る意味が分からないが……まあ、でも、それが彼の生き様だったんだから、ファンとしては受け入れないといけないよね」
「……」
「センくんが死んでしまったことは残念だけど、けど、悲観してばかりもいられないよ。センくんは死んだけど……そのかわり、タナカレイナは生きのこった」
蝉原がそう言った直後のこと。
センエースの圧殺死体が、
ぐにゃぐにゃっ!
と、躍動しはじめて、
そして、一瞬で、レイナの形状になると、
「ぷはぁ……」
レイナは息を吸って、パチっと目を見開き、
「センエースの命……タナカレイナの肉体……シュブニグラスの盾……無数のチートスペシャル……素晴らしい……」
自分がもっている資産にうっとりしながら、
『レイナ』――『イー・ト・ラー』は、
「これほどまで、私にだけ都合のいい漁夫の利があっていいのだろうか……ふ、ふふ……いいか悪いかは知らんが……とにかく私は手に入れた。全てを……全部をぉ!!」
そう叫んでいるイー・ト・ラーを尻目に、
蝉原デスガンが、
「別にリーダーを気取る気はないけど、まとめ役はいた方がいいだろうから、今は俺が、君たちを牽引させてもらう。とりあえず、現状をまとめておく。レイナはセンくんに命を救われて死なずに済んだけど、結果、イーに奪われた。全てをもっている今のイーは非常に強いよ。どうにかして殺さないと、人類は終わる。状況は理解できたかな? じゃあ、張り切ってイーを討伐することにしよう」




