33話 だっさ! 情けな! 臆病者! チキン! マスターチキン! グレートチキン! ミラクルチキン!
33話 だっさ! 情けな! 臆病者! チキン! マスターチキン! グレートチキン! ミラクルチキン!
「同情するならさぁ、金をくれとは言わないから……せめて、一発、殴らせてくれねぇか? 一発だけでいいから。先っぽだけでいいから」
「……また、ずいぶんと、下品やなぁ。女子中学生相手になにいうてんねん。ほんま、そろそろ捕まるで。ほんで、終身刑になるで」
「いいだろ、一発だけ。一発だけでいいから! それとも、俺が怖いのか?! 世界一の美女であるレイナさんともあろうものが、ブサイクの俺が怖いのか?! だっさ! 情けな! 臆病者! チキン! マスターチキン! グレートチキン! ミラクルチキン!」
「アホみたいな挑発やな。……まあ、別にええけどな。意味ないし。メイドの土産に、一発ぐらい入れさせたるわ。……はっ。こんな『ショボい悪役みたいなこと』を言う日が来るとは思わんかったな。わらけるわ」
そう言いながら、センに向かって『さあ、どうぞ、お好きに』とばかりに両手を広げて無防備をさらしてくるレイナ。
「ありがとうございます! 女神様!」
と、センは、いったん、無様に、へりくだってから、
スゥと息を吸って、早口で、ツラツラと、
「悪鬼羅刹は表裏一体。俺は独り、無間地獄に立ち尽くす。どこまでも光を求めてさまよう旅人。ここは幾億の夜を越えて辿り着いた場所。さあ、詠おう。詠おうじゃないか。喝采はいらない。賛美も不要。俺は、ただ、絶望を裂く一振りの剣であればいい」
厨二力全開のポエム。
痛々しい若さゆえの過ちも、
狂気を込めれば華となる。
「……それでは、独善的な正義を執行するとしよう。たゆたう『血で穢れた杯』を献じながら。――俺は、この世で最も愚かな暗闇。聖なる死神の閃光」
聖なる死神という、何言っているか分からない狂気を喚いてから、
センは、ギっと視線に力を込めて、
「――『殺神遊戯』――」
異次元の厨二で、運命と向き合う。
閃拳ではない拳を、レイナの胸部に向けて叩き込んでいく、狂気の閃光。
その拳は、
レイナの育ちきっていない胸をえぐり、胸骨を粉砕し、心臓まで届く。
「がはぁっっっ!!!」
大量の血を吐くレイナ。
『意味が分からないという顔』で、
反射的に、自分の胸をえぐっているセンの腕を両手でガシっと掴み、
「な、なんでやねん……おどれ……あたしよりブサイクやのに。……あたしより美しくない者は……あたしにダメージを与えられんはずやのに……なのに……な、なに、このバグ……」
「美人しか美人を殺せないってんなら……まずは、その幻想をブチ殺す」
「……は……はぁ?」
意味不明を顔面全体で体現する彼女に、
センは、とうとうと、
「正直、俺も、何がどうなって、お前にダメージを与えられているのか理解してねぇ。さっきまでの攻防で、『俺じゃあ、お前にダメージを与えられないっぽい』ってのは、なんとなく理解していた」
挨拶のジャブ程度の攻撃しかしていないが、
それらが明らかにノーダメだったことは肌感で理解している。




