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53話 海の底にいるみたいだ……


 53話 海の底にいるみたいだ……



 モンジンとジャミたちの闘いを見て、ミシャは、


(……美しい……)


 うっとりと心酔していた。


(洗練された武の極致……流水と柳……)


 周囲の者たちは、目の前で起こっている事のとんでもなさが、まるで理解できていない。

 出来る訳がない。

 こんな虫ケラみたいな連中に、あれほどの高みが理解できるはずがないのだ。

 だが、しかし、

 使徒クラスにもなれば、


(((……大きい……)))


 その程度は理解できる。

 どのくらい大きいのかを『具体的に理解する事』はできずとも、

 目の前にある山が大きいという事を把握するくらいはできる。


 ――1京円分の札束の山をイメージしてもらいたい。

 『円』の価値を知らない者が、それを見た時、どう思うか。

 『それにどれだけの価値があるか』を正確に理解する事は出来なくとも、間違いなく『とても精巧な模様の紙がアホほどたくさんある』という『凄さ』には圧倒されるだろう。


 それと同じで、使徒たちは、『キチンと分かっているワケではないが、とりあえず、そのサイズ・ボリューム感に圧倒されている』という状況にある。


 みな、黙って、モンジンたちの闘いを見つめていた。

 『何がおこっている』のか理解はできなかったが、

 『何かが起こっている』という事はわかったから。



 ――ミシャが言う。


「よく見ておくといい」


 静かな声で、


「二度と見られるものではない」


 その空間からは、しばらく、息をのむ音しか聞こえなくなった。






 ★



 闘いの中で、




「命の重さを軸にしてみろ。さすれば、なぜだか、少し軽くなる」




 ――ジャミは思う。


(海の底にいるみたいだ……)


 時間が経つにつれて、ジャミは『理解』していった。

 ジャミだけではない。

 間近で見ていたバロールも、理解に近づいていた。




「いい加減、気付け。お前らは、お前らが思うよりも、多くを知っている」



 ジャミとバロールの魂魄が震えた。

 魂は、とっくに気付いている。

 目の前にいる少年の、底しれない――


(この『遠さ』は……いったい……)


 『導かれている』と気付くのに、そう時間はかからなかった。


(これは戦闘ではない……すべてが、おそろしく高次の指導手……)


 凶悪とも評すべき、別次元の教導。

 引き上げられていく。

 常識が壊されていく。

 再構築されていく。


(いや、これは、もはや、啓蒙ともいうべき――)


 この短時間で、ジャミは開かれた。

 壊れて、なくして、砕けて、捨てて、


 そんな、『新しい時間』を、信じられない速度で積み重ねていく。




「色々と見失ってきたな? それでいい。いつだって、夜明け前が一番暗い」




 言葉一つ一つが、鍵であり扉だった。

 驚くほど綺麗に、あてはまっていく。


 分かる。

 理解できる。


 ジャミは強くなった。

 根底を支えている『ジャミの器』は、破壊され、再生し、信じられないほど強固になった。

 『自分一人だけ』では、仮に、何十・何百・何千・何万年という時間を積んだとしても、絶対に届かなかった世界に、ジャミは、この数分で辿り着く事ができた。


 バロールは、その領域に、まだ立てていない。

 しかし、見えてはいる。

 もう、暗闇にはいない。




「常識を捨てる時がついにきたんだ。それだけの話なんだよ」




 あやふやだった武のシルエットが、キッチリと明確に浮かび上がる。

 ラフ画のような白黒に、綺麗な色がつく。

 なぞられていく。

 整って、完成に近づく。


 ――ゆえに、


(……ありえないっっ!)


 心が叫ぶ。


(こんなこと……ありえるわけがない!)


 ジャミは、これまでの人生で、必死に頑張ってきた。

 若いため、まだまだノビシロはあった。

 限界には達していなかった。

 それは事実。

 しかし、ここまでにやってきたことは嘘じゃない。


 ジャミはちゃんと強くなってきた。

 間違うことなく、ちゃんとまっすぐに、強さを積み重ねてきた。

 その結果が今のジャミ。

 無駄な余白なんかなかったはず。


 だから、『ゆっくりと積み重ねていく』しかなかったはずなのだ。

 なのに、




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