16話 直接的な言葉は少なかったけど、全体でみれば、センセーは、一貫して、ボクに、『月が綺麗ですね』って、ずっと叫んでいたじゃないっすか。
16話 直接的な言葉は少なかったけど、全体でみれば、センセーは、一貫して、ボクに、『月が綺麗ですね』って、ずっと叫んでいたじゃないっすか。
「了解。ボクの全部を、センセーにあげるっす。で、式はいつにする?」
「死期? 俺、殺されるの? なんで? 俺、お前に対しては、プラスのことしかしてないと思ってたんだけど、どこで、そこまでの恨みを買った? ファントムトークか? 俺のファントムトークが、殺したいほどウザかったのか? ……そこは目をつぶってくれよ、病気なんだから」
と、そこで、輝木が、ついに我慢できないという顔で、
星桜の背後から、彼女の腕をガっと掴んで、
グイっと引っ張ると、
彼女の耳元で、巻き舌全開の声を出す。
「妄想は、そのあたりで、いい加減にしましょうねぇ。誰も、あなたに求婚なんてしていませんよぉ」
「おたく、頭おかしいんすか? 今、ボク、センセーから、死ぬほど、結婚を申し込まれていたんすけど。迂遠な言い回しがほとんどで、直接的な言葉は少なかったけど、全体でみれば、センセーは、一貫して、ボクに、『月が綺麗ですね』って、ずっと叫んでいたじゃないっすか。それが分からないとか、あんた、どんだけ女やめてんすか? 終わってんのは、顔だけにしといた方がいいっすよ」
「……センイチバンは、あなたに、ずっと、『キチ〇イ、消えろ』としか言っていませんよぉ。アタマだけじゃなく、耳もおかしいとか、逆に、どこが正常なんですかぁ?」
「あんたにどう思われようが知ったこっちゃないっすけど、とりあえず、邪魔するの、やめてもらっていいっすか? 今は、ボクとセンセーの時間なんで」
「そんなものはありませんよぉ。センイチバンは優しいから、あなたに同情しただけで、それ以上でも、それ以下でもありませぇん。勘違いもいい加減にしましょうかぁ。そろそろ、本気で腹が立ってきていましてねぇ……このままだと、自分の中の殺意を止められないんですよぉ」
「それこそ勘違いやけど……仮に、万が一、センセーが、まだボクに興味なかったとしても、だからといって、センセーがあんたに対して、特別な感情を抱くとかはありえへんっすよ。だって、もう、センセーは、ボクという美少女の中の美少女を見てしまっとるからなぁ。ボクを見たあとで、あんたみたいな半端なブスを見たら、落差でゲロ吐いてまうやろ、常識的に考えて」
「……あ、切れたぁ」
ブチっという音が確かに聞こえた。
輝木は、シャレ要素ゼロの、本物の殺気を全身から放出しつつ、
星桜を殺そうと、
「――殺戮神化――」
凶悪なエネルギーで全身を満たして暴走。
反射的に、星桜も、
「殺戮神化ぁああああ!!」
一気に暴走モードに突入。
この期に及んで、何が何だかわかっていない『アホの子センさん』は、
「え、なんで、急に覚醒暴走した?」
あたふたしつつも、
輝木と星桜が、ガチで取っ組み合いを始めたので、
センは、
「いや、お前ら、マジやん!」
と叫びながら、
二人の間に割って入り、
星桜と輝木、両者の首に対して、
『蝉原デスガン以外、全員が見逃しちゃう、恐ろしく速い手刀』を繰り出して、
バタリ、バタリと、一瞬のうちに気絶させていく。
一瞬で静かになった保健室で、
センは、
「はぁあ」
と、深いため息を口にしつつ、
「しんどいから、休ませてくれって言ってんのに、このバカどもがぁ……さっきの殺戮神化ってやつ、なにがトリガーになるのか、さっぱり分からん過ぎて、怖いんだが……あれかな? 完全ランダムなのかな? いや、でも、それにしては、二人が同時すぎたから……近くで誰かが殺戮神化になったら、なれるやつは全員なっちゃうとか、そういう感じなのかな? この辺、ウルアはんと久剣はんは、どう思いやす?」
問われたウルアと久剣は、一度、互いに、顔を見合わせてから、
どう言ったものか……という、困り顔をしてみせた。




