13話 この空気……どうした? 誰かが、誰かの親でも殺した? そのぐらいじゃないと、ここまでの空気にはならないもんな。
13話 この空気……どうした? 誰かが、誰かの親でも殺した? そのぐらいじゃないと、ここまでの空気にはならないもんな。
「妄想がすごいですねぇ。……センイチバンが、あなたと初めて顔を合わせてから、今この瞬間に到るまで、ずっと近くで見ていましたが、センイチバンは、あなたに対して一度も、求婚などしていませんよぉ。というか、ずっと、『星桜サンのことをキモがっていた』という記憶しかありませんねぇ」
「言葉の裏にある機微っちゅぅもんを読みとらなあかんっすよ。……って、ああ、そうか、機微は人間にしか分からん繊細なもんやからなぁ……鬼にはわからんかぁ」
けらけらと笑う星桜を、
限界まで冷めた目で睨んでいる輝木。
その、一色触発の空気を過敏に察知した久剣が、
両者の間に割って入り、
「いやいや、あなたたち……まさか、殺し合いとか始めないよね?」
そんな久剣に続くようにして、
ウルアが、ニコリと微笑み、
「やるなら、外でお願いしますね。ここには閃様がいますので。……あなた方の殺し合いを止めはしませんので、ここではなく、どうか外で」
などと言いつつ、穏やかにニコニコしているウルアに、
久剣が『やばい奴を見る目』を向けて、
「いや、そもそも、ケンカを止めないと……『やってもいいけど外で』とかいう話ではなく……」
「いいじゃありませんか。勝手に潰し合ってくれるというのですから、好きにさせておけば。とことんやって、どちらかに消えて頂ければ、ライバルが減るので、とても好都合です」
「聖母みたいな笑顔で、エグいこと言ってる……」
ドン引きの顔をしている久剣。
穏やかな笑顔のウルア。
挑発する星桜。
ブチギレの輝木。
カオスが煮詰まっている保健室。
そのあまりの威圧感に触れたことで、
失神していたセンが、
「……ん……んん……」
息苦しそうに、頭をかきむしりながら、目を覚まして、上半身を起こす。
意識を取り戻してそうそう、保健室の空気が異常なほど悪くなっているのを感じて、
センは、
「なに、この空気……どうした? 誰かが、誰かの親でも殺した? そのぐらいじゃないと、ここまでの空気にはならないもんな。……おいおい、だから、『他人の親を殺すのはやめておけよ』って言ったじゃん。……めっちゃ恨まれて、空気悪くなるって、俺、最初に言っただろ。これに懲りたら、もう、二度と、他人の親を殺すなよ。わかったな。めっ。まったく」
どうにか空気を換えようと、
渾身の切り札、『ファントムトーク』を繰り出していく。
基本、ずっと、切り札しか切っていない男が魅せる切り札は、
やはりというか、見事、全員からシカトされた。
センが起きたことで、
星桜は、『輝木に向けていた意識の全て』を、
センにガチっと、スイッチし、
「いろいろと、言いたいことはあるんすけど、とりあえず、ボクの呪い、半分だけでもええから、返してほしんすけど」
「まだ言ってんのか、てめぇ。そんな死ぬほど昔のこと……いったい、何世紀前の話してんだよ」




