97話 命の咎。
97話 命の咎。
絶句した顔で、200体以上の犬を見ているセン。
真っ青になっているセンに、ミゼーアが、
「私の手勢……ティンダロスの猟犬たちだ。基本的には下級のグレートオールドワン程度の力しか持たないが、私が魔力を注ぐことで、一時的に、『アウターゴッド級の力を持つ大群』として運用できるようになる」
「……」
脂汗が止まらないセンに、
ミゼーアは、
「この運用法は、大量に魔力を消耗するので、本当はやりたくないのだけれどね。誰だって無駄に激しく疲れるのは嫌いだろう?」
「……」
「よくも、私を疲れさせてくれたね。そのお返しはキッチリと――」
と、小気味よく、センを脅していたミゼーアだったが、
しかし、そんなミゼーアの言葉など一切シカトで、
センは、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
脳の血管が全部ちぎれるんじゃないかと心配になるほど、
真っ赤な顔で、全身の到るところに、強烈な圧をかけていく。
ミゼーアは、最初、センが、単にヤケになって喚いているだけ……と思っていたが、
しかし、違った。
どんどん……
どんどん、どんどん、
センを構成する『総量』が増えていく。
★
――認知の領域外で、
でかいエアウィンドウに表示されている『センとミゼーア』を観察している、
『蝉原勇吾』と『ショデヒ』の二人。
『センエース』が『ミゼーアの前で急に総量を増し始めた奇抜すぎる様子』を尻目に、
ショデヒが、焦った顔で、
「な、何が起きている?!」
眉間にガッツリとシワを寄せて叫ぶショデヒに、
蝉原が、冷静を保ちつつ、内心では動揺しながら、
「……センくんは、『原初の呪い』だけではなく、『田中・イス・星桜が、生まれてから今日までに受けてきた、全ての痛み』を……背負おうとしている……」
「痛み?! なんだ?! 何を言っている、蝉原勇吾!!」
「いや、違うな。それだけじゃない……ははっ」
つい笑ってしまった蝉原に、
ショデヒが、バチギレ顔で、
「蝉原ぁ!」
「騒ぐなよ、ショデヒ。センくんの奇行を、ゆっくり観察しようじゃないか」
じっくりと、画面の向こうにいるセンエースを見つめる蝉原。
先ほどまで、白目で咆哮していたセンだったが、
ふいに、叫ぶのをやめて、目を閉じ、天を仰いだ。
その様子を見つめながら、蝉原は、ボソっと、
「……本当に、センくんには驚かされるよ。『この世界線の星桜の痛み』だけではなく……全ての世界線の星桜の痛み……田中・イス・星桜という概念が背負うべき重荷の全てを……余すことなく、奪い取った」
「な、なんだ、その謎の行動……そ、そんなことをして何になるという……」
「荷物の分だけ、質量が増える」
「?!」
「無意識のうちに、メギドを媒体にして、強烈なアリア・ギアスを起動させている。――『田中・イス・星桜の重荷を全て背負う。その代わり……彼女たちを守れる力をよこせ』――……これほど美しいアリア・ギアスが他にあるだろうか。彼女たちのワガママを……命の咎を……センくんは……全て、余さず、受け入れようとしている」




