91話 まったく、余計なことをしてくれたね。私の獲物だったのに。とはいえ、仕方がない部分もあるから、叱責するつもりはない。
91話 まったく、余計なことをしてくれたね。私の獲物だったのに。とはいえ、仕方がない部分もあるから、叱責するつもりはない。
ティンダロスの王達は、言葉で意思疎通をはかることもなく、肌感と空気感だけで、コンマ数秒の『相談』を終えると、『8体は、センエースに対する壁役。残り1体で、女どもを処理する』……という作戦を構築し、即座に実行。
「そりゃ、好手過ぎじゃろ、アリンコぉおおおおおおおおおおお!!」
一番イヤなコトをやられて絶叫するセン。
脳みそがギュンギュンと腫れあがる。
肉体が、負荷に耐えられず、ビキビキとひび割れて、今にも破裂しそう。
そんな前提など、くそくらえとでも言いたげに、
センエースは、豪速で距離を殺し、
星桜たちの盾になろうとする。
その動きを読んでいた『8体の王たち』が、
自らの肉体を壁としてセンエースの妨害をはかる。
「邪魔ぁああああああっ!」
半ば意識を失ったような白目と、充血しすぎて真っ赤になっている顔。
どこから湧き出ているのか分からないエネルギーを限界まで加速させて、
8体の王たちをはねのけると、
星桜たちを殺そうとしている『1体の王』の首を背後からズバっと手刀で切り飛ばす。
『1体の王』は、そんなセンの動きすら前提として読んでいたようで、
自分の死体を、クレイモア地雷のように扱った。
死体が爆発し、内部で作成していた魔弾が散弾銃の弾丸のように、
星桜たちめがけて襲い掛かる。
「ドリームオーラ・オメガバスティオン!!」
極限に次ぐ極限。
もはや意識の介入する余裕などない。
すべてが、反射の連鎖。
星桜たちを守るために出来る全部を徹底するヒーロー。
降り注ぐ魔弾……その一つ一つの威力は大したことがない……というのを、コンマ数秒の中で気づいたセン。
ゆえに、オメガバスティオンの精度が乱れた。
センの集中力は無限に見えるだけで無限じゃない。
心の中で舌打ち。
自分の弱さに苛立っている間に、
魔弾の嵐がセンの全身に降り注ぐ。
ギリギリ限界の根底で、
どうにか、後ろにだけはそらさないように、
必死になって、全ての魔弾を受け止めていくセン。
ハチの巣になりながらも、
しかし、貫通だけは許さない……と、
気合いと根性を暴走させる。
結果、一発たりとも後ろにそらすことなく、
完全に防ぎ切ったセン。
現場に残ったのは、
見るも無残なグッチャグチャ状態のセンと、
無傷の星桜たちと、
8体の王とミゼーア。
ぐちゃぐちゃになったセンを見て、
8体の王の中の1体が、ミゼーアに、
「申し訳ありませんが、我々で、あの者を処理してしまいました。謹んでお詫び申し上げます」
「まったく、余計なことをしてくれたね。私の獲物だったのに。とはいえ、仕方がない部分もあるから、叱責するつもりはない」
などと、呑気なことを言っているミゼーアの視線の先で、
ぐちゃぐちゃになったセンが、
「勝手に、死んだことにして、話を進めてんじゃねぇよ。湿度の高いイジメかっ」
「死んでいない? バカな……生命力は完全に尽きたはず……」
「HPが0になった程度で死ぬと、いつから錯覚していた?」




