89話 8月31日じゃないと、本気で夏休みの宿題に取り組めない。
89話 8月31日じゃないと、本気で夏休みの宿題に取り組めない。
「今回、君たちに発する命令は――『この場にいる人間を皆殺しにせよ。ただし、あの龍鎧を纏う者は私の獲物だから手をだすな』――以上だ」
そうオーダーを出すと、ティンダロスの王達は、セン以外の人間……つまり、輝木、ウルア、久剣、星桜の四名に向かって、ギロっと殺気を飛ばしていく。
しっかりと観察し、
『雑魚すぎて話にならない。秒で殺せる。なんで呼ばれた?』
という結論&疑問を抱きつつ、
音もなく八方に飛び散り、
彼女たちの首を跳ね飛ばそうと突撃。
そんなティンダロスの王達の猛攻に対し、
反射・反射・音速・高速で、
センが、
『彼女たちを守るポジショニング』を固め、
「ドリームオーラ・オメガバスティオン!!」
どうにかこうにか、美少女たちを守っていく。
センと王達の動きが、どれも、豪速すぎて、星桜たちは、何が何だかわかっていない……が、センが守ってくれたことだけは、流石に理解できている様子。
我先にと感謝の言葉を伝えようとしたウルアに、
「黙ってろ! うごくな! 状況が、とにかく、吐くほどやべぇ! 俺の集中にデバフがかかる行動は慎め!」
言葉に配慮も遊びもない。
マジでキンキンに切羽詰まっている。
……ティンダロスの王達は、数字だけで言えば、
ミゼーアと大体同じぐらい。
本来であれば、王達とミゼーアの間には、大きな差があるのだが、
コードゲートがインストールされていない『現状』だと、
カンストの天井が低いので、『差がない』という結果になってしまっている。
ただ、現状でも、戦闘力や魔力コントロールなど、
差がある部分も結構あるため、
明確に、ティンダロスの王達は、ミゼーアよりも弱い。
比較すれば弱い……が、数値がハンパないので、
星桜たちでは、かするだけでもアウト。
――その最悪に危機的な前提が、むしろ、センの気合い・集中力を膨張させていく。
こういう、『背水の陣』『ほかに手がない』という時の方が、オメガバスティオンの成功率は上がる。
というか、こういう極限状態じゃないと、オメガバスティオンを成功させるモチベーションを維持できないといった印象。
『8月31日じゃないと、本気で夏休みの宿題に取り組めない』――というアレに近い本能レベルの現象。
――とはいえ、
(敵の数が多すぎるっ。このジリ貧を継続するのは流石に不可能。――どうする。――考えろ。――どうすれば、このやべぇ状態を切り抜けられる?!)
普段は鈍化している出来損ないの脳みそが、
重たい道着を脱ぎ捨てた戦闘民族のように、
軽やかに、高速に、しなやかに、高速回転。
爆速で『今』の処理を求めた結果、
センは、
「さんざん考えたが、小難しい話は皆無。結局のところ、生存闘争で生き残るしかないってだけのシンプルで原始的な問題。……星桜たちを守りながら、ミゼーアのファンネル部隊10匹を殺し……最後にはミゼーアもぶっ飛ばす……やること多いな。でも、まあ、命をかければ、いけなくもなさそう……」




