84話 法律とフェミニズムがなかったら、馬乗りになって、タコ殴りにしているところだ。俺の口から、動物を二匹分も引き出すとは、なかなかやるじゃねぇか。
84話 法律とフェミニズムがなかったら、馬乗りになって、タコ殴りにしているところだ。俺の口から、動物を二匹分も引き出すとは、なかなかやるじゃねぇか。
しんどそうにそうつぶやいたセンの背後から、
星桜が近づいてきて、
「センセー、ボクの呪い、返して」
などと、空気が読めていない発言をかまされて、
センはバチギレ顔で、
「今、忙しいのが、見てわからんかぁあああ! お前の呪いがどうとか、そんなこと言っている場合じゃ――」
「アホちゃうから、状況は理解しとるっすよ。センセー以外、そこの怪物の対応はできん。ボクのメギドやと、それほどの怪物と対峙するんは無理。センセーだけが、人類の切り札にして、最後の砦。そんなセンセーが、無駄なハンデを背負っとるという状況は、人類的に問題があるんすわ。というわけで、ミゼーアをどうにかするまでの間は、ボクが背負っとく。ようするに、一時的に返して欲しいんすよ。この呪いが、どうしてもほしいなら、あとで渡すから、一旦、預からせて」
「……」
「はよぉ」
と、急かしてくるセラに、
センは、
「お前、俺から返してもらった直後に、呪い抱えて自殺する気だな」
「……」
「キモい女だ。マジで、ウゼェ。法律とフェミニズムがなかったら、馬乗りになって、タコ殴りにしているところだ。俺の口から、動物を二匹分も引き出すとは、なかなかやるじゃねぇか。くるしゅうない。どっか行け」
と、まっすぐ、ワケの分からん寝言を枕にした上で、
「……もしくは、黙って見てろ。邪魔するな。……そうすれば……理想のハッピーエンドが、助走つけて殴り掛かってくる」
最後に一度、ご機嫌にボケてから、
……センは、ミゼーアを睨む目の品質に変化を加える。
大きな深呼吸をはさんで、
心を整えて、
ミゼーアをにらみつけたまま、
ハッキリと、
――星桜に、マジの想いを奉げる。
「今日までよく頑張った。もう何も心配しなくていい。……あとは俺が全部やる」
そんな、センのキチ〇イ発言を受けて、
星桜の全身がドクンと脈打った。
開き切った目が離せなくなる。
心が砕かれて、そして、瞬時に再構築されたような、
そんな、不可思議な感覚。
これまでの『20年近い人生』の中で、一度も感じたことがない淡い衝動。
観念上の色彩は、パステルカラーのはずなのに、
心の中で膨らむ輝きは、
ギラギラ、グツグツと、
極彩色に燃え上がっている。
そんな星桜の『心の煌めき』に呼応して、
メギドが、トランスフォームを勝手に解除し、
二頭身のトカゲモードになると同時、
「きゅぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
と、ガンギマリの目で、天を仰ぎ、
この世の諸悪を亜空切断するような咆哮をあげた。
直後、メギドの全身が一度、グシャビジャッとバラバラに解体される。
そして、勢いそのまま、秒で再構築。
まるで、『今の星桜の心』を再現しているかのように、
メギドがうねりをあげて変化していく。




