68話 大統領や総理大臣の名前は知らなくていいが、田中トウシの名前だけは知っておかなきゃダメだよ、きみぃ。
68話 大統領や総理大臣の名前は知らなくていいが、田中トウシの名前だけは知っておかなきゃダメだよ、きみぃ。
「あいつほどの天才ともなれば、アカコーでも不足しているが、この近辺だと、アカコーがダントツだからな。……少なくとも、あのレベルの天才が、東高や西高みたいな、『勉強しなくても、誰でも入れるようなカス高校』に行くことはない」
「そういうのは、口に出さず、心の中で思っておきなさい。めっ」
と、叱り返してから、
センは、『月明かり』を後にした。
「また、いつでも遊びにきていいぞ、セン」
「二度とこねぇよ。俺にとっちゃ、トラウマの場所だからな」
そう吐き捨てつつ、建物の外に出てすぐ、
センは、赤松高校の3年生である金戸ウルアに電話をかける。
ワンコールで出た彼女に、
センは、
「相変わらず、出るのはぇなぁ……もしかして、常にスマホを右手にセットしてる? まあ、それはいいとして……金戸センパイ、あんた、アカコーの生徒なら、一年の田中トウシ、知ってるよな?」
と、声をかけると、
『? いえ、存じませんが』
「は? 田中トウシを知らない? あの田中トウシだぞ? このセンエース様の心を折ったことがあるでお馴染み、世界最強の天才、狂気のガリベン、田中トウシをご存じでない? マジか、お前。終わってんな。大統領や総理大臣の名前は知らなくていいが、田中トウシの名前だけは知っておかなきゃダメだよ、きみぃ」
『も、申し訳ございません』
「ガチ目に謝られても困るんだよなぁ。絶対に冗談だって分かるよね? ……あんたの相手すんの、ムズいわぁ……」
と、一度、苦言を呈してから、
センは、
「マジで名前、聞いたことない? 絶対にブッチギリ主席のはずなんだけど。ヤバい天才が一年にいるって騒がれているはずなんだけど」
『申し訳ありません。この高校の生徒に、あまり興味がなかったもので。それに、今年に入ってから、社会科見学をするペースが増えていて、あまり通ってもいませんでしたし……今日は、出席日数の確保のために、一応、来ていますが……』
「あ、そう……まあいいや。とりあえず、学校にいるんだったら、一年の田中トウシってやつを探してきてくんない?」
『かしこまりました。探してきますので、一旦、切らせていただきます』
ウルアが電話を切ってから、3分ほどが経過したところで、
センのスマホが鳴った。
電話をかけてきた相手はウルア。
センはすぐに出て、
「あのアホ、見つけてくれた?」
『いえ、申し訳ありません。どうやら、今日は休んでいるようです』
「はぁ?! あのボケ……どこまで、人のことをナメくさってくれれば気がすむんだ……今度会ったら、絶対に、後頭部にドロップキックを決めてやる。俺の打点の高さをナメんなよ……」
ため息交じりにそう言ってから、
センはウルアに、
「金戸先輩……あんたの爺さんの力を使って、その『田中トウシ』ってやつの住所を調べることとかできないか? 今のご時世、どうせ、教師に聞いても、個人情報がどうとか言って教えてくれないだろうからな……もう、権力に頼らせてもらう」




